牛の移動

 最近、オーブンで焼く焼き芋にはまっている。安納芋とかあまみつというらしいが、一時間ほどじっくり焼くと、透き通った黄金色になり、蜜が垂れ信じられないほど甘い。北海道では、ストーブの上でよく焼き芋を焼いたが、この安納芋は、当時焼いた金時とかベニアズマとはまるで違う食感だ。次元の違う甘さなのだが、あまりに溶けすぎているように思うのは、俺だけなのだろうか? もうちょっとだけ、ホクホクとした食感があっても良いような・・・冷めても美味いけど・・・。

 今朝は、湾放牧地から連れ帰った四頭の、スタンチョン調教から始まった。ハナコともう一頭は、飼槽にエサを入れたら、自力で顔を入れることが出来たが、残り二頭はロープで引っ張って入れた。とにかく、スタンチョンに頭を突っ込むと、エサにありつける事を実感してもらうために、いつもより多めの配合飼料を、数回に分けて与えた。牧草も、質の良い物を奮発した。良い思いをさせた後、スタンチョンを解放したのだが、ハナコ以外は自力では自由になれなかった。床をはいだから、出にくくなったかもしれないが・・・。
 湾放牧地に見回りに行ったら、みずほ一人で淋しそうにしていた。ハルカとモトツボクミコはどこに行ったのだ? となりの放牧地を探してみた。すると、となりの牛の群れに混じって、ハルカがいた。
 ハルカ(百合茂←北国7の8←安平)は、瀬棚の牧場だった頃、うちで生まれた。神経質だったので、ブラッシングをしたり、毎日5分ずつ引き牛調教をしたり、かなりの時間を費やして人になじむよう手をかけたのだが、彼女は良い記憶は全く覚えることが出来ず、怖いとか不安とか言った気持ちを抑えることが出来ない。だから、扱いやすくなったと思って気を許すと、あっという間に元の不良牛になってしまう。血統的には、俺はとても気に入っているのだが、放牧するにはとても扱いにくい。
 捕まえるか追い込むかしようとしたが、ハルカは俺が追う方向を無視して、深い藪の中に逃げていった。
 ハルカを諦めて、モトツボクミコを探した。クミコは、お隣の小屋の前にいた。ぬかるみの中・・・。運動靴の俺は近づけないので、長靴の従業員さんにロープをかけてもらい、無事捕獲して連れ帰った。連れ帰るとき、ハルカの側を通りつつ、着いて来るように促したが、ハルカは知らんぷりして逃げていった。

 昼から仕切り直しだ。
 まず、境界の倒された柵に支柱を継ぎ足し、飛び越えられない高さにした。でも、柵は延々と続いているから、ごく一部を補修しても、根本的解決にはならないのだけれど・・・。
 ハルカを、袋小路になっている小屋の方に追い詰め、通常の2倍の長さのロープを首に引っかけた。そして、全力で駆け出す前に、柵に縛り付け、何とか確保できた。そのまま、小屋に引いて帰り、ハルカが適応出来ている小屋下放牧地に放した。ここは、出産後の牛を管理する場所で、妊娠している牛が入る余裕は無いのだが・・・。困った牛だ。

 育成牛で、まだ角が残っていたれいことなつしげを除角した。
 れいこは、本当は他の人の家に行くはずだった牛なのだが、名前が原因で受け入れてもらえず、我が家にやってきた。実は、とても人に従順で扱いやすい。今日は、枠場で静脈注射したら、ちょっとロープを緩めるだけで、その場で処置をしてみた。結果的には、枠が邪魔になることもあったけど、余計な危険も無く、やりやすかった。麻酔中和剤が無くなったので、麻酔から覚めるのにかなり時間がかかってしまった。

 夕方、ふくしげが産気づいた。作業しながら、三時間待ったけど、一向に進まないので、助産することにした。ふくしげは、とても神経質だ。枠場ではなく助産したら、尻を振ってやりにくかった。でも、産科テープを装着したら、観念して息んでくれた。出てきたのは、普通サイズの雄子牛だった。福茂太郎(華春福)だ。
 福重太郎は、意外に早く立って、母親の乳首を探したが、ふくしげは蹴って飲ませなかった。しばって、口にヘラを噛ませて気を紛らそうとしたが、腹の下に子牛が近づくと、足で払いのけてしまう。仕方ないので、人口初乳を飲ませた。

 帰る前に、全体のチェックをしようとしたら、闇の中に牛がいた。近寄ってみたら、湾放牧地に連れて行ったはずの、みずほだった。モトツボクミコが邪険にするから、寂しくて帰ってきたようだ。歩いて連れて行くとき、曲がり角でモタモタしていたのは、道を覚えるためだったのかな? よく帰ってきたね(^_-)-☆