そんなに心配はしてなかったけど、春花太郎はトントンマットの上で、寝ていた。目に力がある! これは大丈夫だ。
 準備をして、船に乗り込んだ。
 予想通り、船は揺れていた。俺は、寝転んでいれば、この程度では船酔いしないので、ずっと本を読んでいた。
 『永遠の0』を読み終えた。とても悲しい物語だ。
 誤解の無いように言っておくが、俺は第二次大戦では、日本が負けて良かったと思っている。もしも違う結果になっていたら、軍部の暴走を抑えることなど出来なかったのでは無いかと思っている。とことん負けたおかげで、今の平和な日本があると思っている。
 だけど、国の為だと信じて命を投げ出させられた兵の方方の悲しさや苦しみについては、書物などを読んで俺なりに感じているつもりだ。
 この本は、俺のそういう認識を、改めて確認するものとなったし、漠然と感じていた参謀本部の不思議な体質へのモヤモヤを、快刀乱麻に断ち切り明瞭に示してくれた。将兵の命は何とも思っていないくせに、自分の出世競争に関しては必死だった官僚体質がそこにあり、そんなことで失われていった230万人もの命が、悲しかった。