かずえ17

 相変わらず、脱走牛とのイタチごっこをしている。脱走名人牛を、牛舎に収容していると、出産前の牛を入れる場所が確保できなくて困る。
 今日は、飛行場のフェンスに、バラ線を張る作業をした。800mの滑走路を持つ飛行場が、俺の牧場の真ん中にある。牧場と飛行場の境界は、飛行場のフェンスで仕切られているのだが、このフェンスがボロボロなのだ。飛行場内には、手つかずの植物が生えており、牛達にはとても魅力的らしい。ボロボロになった金網を破って、中の植物を食べる。
 飛行場に牛が入り込んだところに、もしも飛行機が飛んできたら危ないから、フェンスの穴は牛の飼い主が修理するように言われるのだが、元々は飛行場に侵入者を防ぐための飛行場の施設なのだから、飛行場の管理人がフェンスが壊れたら修理するべきと思うのだけど・・・。そう言っていても、修理をする気配が無いので、俺が修理している。
 困った事に、穴を塞いでも、フェンスそのものがボロボロだから、塞いだ穴のすぐ隣に、新しい穴を空けられ脱走される。だから、全体的にバラ線を貼り付けるしか無いのだ。
 
 作業をしていると、北海道から連れてきた『かずえ17』(第一花国)が、ずっと側に寄り添い随行してくれる。
 青森の名牛『第一花国』は、かつて『平茂勝』と並び称されるほどの牛で、その精液は闇値で一本十万円という噂もあったほどだ。当然、その娘であるかずえ17は、とても大切にされたに違いない! 我が家に我が家に始めて来た日、彼女は頭の先からつま先までお嬢様だった。新入りだから、他の牛に苛められることが多いのに、自分は特別扱いされるという態度が染みついていて、可愛かった。
 出会ってから十年も経ったけど、彼女との関係は未だに変わっていない。いつも自分が一番大切に扱われると思っているし、とても人懐っこい。仕事をしているとき、こういう牛がいると、癒やされるのだ。