堆肥運び

 昨日生まれた御雪次郎は、とても虚弱で全く立てない。普通の子牛は、身体を手で支えてやると、弱々しいなりにも足を伸ばして立とうと試みる物なのだけど、御雪次郎は全く足を伸ばそうともせず、少しでも鍛えて早く立てるようにしようという俺のトレーニングも受け付けなかった。当然、母親の初乳を飲むことも出来ず、人口初乳を飲ませることになった。
 母親のおゆきは、母性が強いので、繋がないと子牛に近づけない。これは、母親にもどうすることも出来ないレベルだったので、すぐに部屋から出して世話した。
 人口初乳を飲ませ、サプリメントの栄養補給をし、セレン製剤を注射し・・・。一晩経っても、何も変わらなかった。だんだん弱々しくなっていくのは、点滴しか手の施しようが無いと思い・・・。点滴を始めたときは、ぐったりして全く動かなかったのだけど、途中からちょっと元気になり、顔を持ち上げぐるぐる回すものだから、樹脂の針が抜けてしまい、点滴は中断・・・。
 
 俺は、Y君にずっと、『堆肥を入れないと、あの土では植物がまともに育たないし、緑肥を使うといっても、その緑肥植物が育たない!』と、堆肥を入れることを勧め続けていた。
 七月に植えた大豆は、日照りにもかかわらず芽を出していたけど、八月の火山性酸性雨で大打撃を受け、先日の台風で塩が降り注いで全滅した。
 抜いた大豆の根には、根瘤が出来ていなかった。これは、ここの土が無機質すぎて、根粒菌さえ生息していないってことでは無いかと、Y君は考えていた。そして、そこに生き物の住める環境を作るために、一部の畑に堆肥を入れようという話しになった。堆肥は一切入れないといっていたのに比べたら、かなりの進歩だ。
 ダンプを借りて、ホイルローダーで積み込み、牧場とY農園の間を何度も往復して運んだ。Y君は、始めて使うホイルローダーだけど、だんだん上手になっていった。