風を感じるぜ!

 硫黄島にも、種雄牛を導入する方向で、俺達は動いていた。雌牛とは比較にならない力があり、扱いを誤ると、命を落としかねないことも判っていた。それでも、導入する価値があると思っていたのだけど、隣の島で事故があり、犠牲者が出てしまったそうだ。
 そうなる可能性があることは判っていたことだけど、実際に事故が起こってしまうと、気持ちは揺らぐものだ。島の牛飼いさん達と話した結果、種雄牛導入は見合わせることになった。温度計が壊れていたことに気がつかず、半年の間種が付きにくい状態を作ってしまい、体調を崩した牛が多い今の状態を、打開して欲しかったのだけど・・・。俺の、授精師としての腕を磨くしか無いのだ!
 
 ピン太郎は、車の窓から身を乗り出し、風を感じるのが好きだ。窓が閉めてあっても、パワーウインドウのスイッチを踏んで、開いた窓から身を乗り出す。俺って、格好いい! って、思っているのかな?