お別れを言いに・・・

 俺は、ものをよく無くす。
 北海道にいる頃、長年愛用していたダイバーズウォッチを、作業中に無くしてしまったことがある。一生懸命探したけど、見つからなかった。
 ところが、一年後にトラクターが通る私道の土から、ほんのちょっとだけ顔を見せているのを見つけた。ベルトは壊れていたけど、まだ動いていた。
 綺麗に洗って、ベルトを買い換え、また使い始めたのだけど、作業中に膝の皿を骨折してしまう事故に遭い、入院することも出来ずに松葉杖をついて帰って来たのだけど、そのどさくさで姿をくらまし、二度と戻ってくることは無かった。戻ってきてから、たぶん一ヶ月くらいのことだった。その間、俺はその時計と共にあっちこっち旅したことを思い出し、とても幸せだった。あれは、別れを言いに帰って来てくれたのかな?
 
 去年から、俺は小さな魔法瓶を持ち歩いて、喉が渇いたときに、冷たい飲み物で喉を潤していた。ちょっと酸味のある冷たい飲み物は、ほんの一口でも効果的に渇きを癒やしてくれるので、ガブ飲みすることも無く都合が良かった。だから、毎日愛用していた。
 ところが、最近見かけなくなっていた。しかたなく、予備の魔法瓶を持ち歩いていたのだけど、不便をしていた。更に、ワンハンドで蓋を開閉出来る魔法瓶を新調したのだけど、畑を耕したときに、ロータリーの刃の餌食になってしまった。
 困っていたところに、愛用の魔法瓶がひょっこり現れた。相変わらず傷だらけで、部品が無くなっているのだけど、元気だった。
 早速使い始めたのに・・・。
 昨日、家に持ち帰ってちょっと部屋に置いたつもりだったのに、忽然と姿を消してしまった。置いたあたりを一生懸命探したけど、まったく姿が見えない。
「どこ行ったんだろうね?」
「たぶん、お別れを言いに帰って来たんだよ。」
「なにそれ?」
普通、何のことか判らないよね? 
 
 今日も、気絶するほど一生懸命働き、ブログも書くゆとりも無く眠ってしまった。