種雄牛

 八時半に約束していたから、早めに朝牛舎作業を終わらせる。昨日、哺乳ロボットに入学した桃華次郎に、哺乳ロボットの乳首に吸い付く練習をさせた。入口にちょっと誘導してやれば、後は自分で吸えるようになった。次は、飲めるかな?
 獣医さんが来て、もとつぼと赤14あいこに、抗生物質を注入してもらった。動いていない卵巣を動かし、子宮を消毒して、それで受胎してもらいたい! 特にもとつぼは、俺が牛飼いを始めたときからのつきあいで、体調を取り戻せば、これからも頑張れるはずだ。お願いだから、頑張って欲しい。
 
 牧場の水道は、毎朝俺が揚水ポンプのスイッチを入れ、二段階で牧場のタンクに溜めている。
 ここ一年は、たいしたトラブルが無くなり、誰かが水道を閉め忘れたことにより、タンクが空になることも無くなり、渇水はほとんど無かった。ところが、3月半ばから今までに5回もタンクが空になり、水が出なくなった。
 真っ先にでなくなるのは俺の牧場で、その度にエア抜きをしないと水は使えない。哺乳ロボットには、特別なサブタンクを取り付けたから、渇水しても即座にミルクが飲めなくなることは無いけど、ほ乳瓶で飲ませる子牛の為には、事務所で水が出ないと作れない。困るんだ。
 相談してみたけど、誰も水を流しっぱなしにしていないらしいから、牧場が一軒増えて、水の需要が増えたのだろう。タンクの容量不足だ。
 何とかならないのかな?
 
 もう一つ問題がある。
 一昨年の11月頃から去年の4月まで、精液を溶かす温度計が狂っていて、しかも授精師の講習で、38℃くらいなら精子は死なないって習ったから、ちょっと長めに溶かしていて、ほとんど受胎してなかった。
 5月に温度計の狂いに気がつき、受胎するようになって来たけれども、その頃に長期不受胎になった牛は、未だに妊娠しない。発情は来るのだけど、良い卵が出来ないようだ。ビタミン剤、大豆カス、乾草の追加、イソジン注入、シダーとPG・・・。いろいろ手を尽くしている、未だに受胎しない。
 こんな時、牧場に種雄牛が居ると、直付けして妊娠することがある。精液ストローの、数万倍の精子があるから、人工授精より受胎しやすい。受胎しない牛も、種雄牛で一度妊娠出産すれば、体調がリセットされて受胎しやすくなる。
 でも、種雄牛は発情した雌牛が居ると、あらゆる障害を突き破って突進するから、扱いや管理が難しいし、経費もかかる。たぶん、一度リセットが完了してしまったら、俺はまた人工授精を重視すると思う。
 そこで、隣島の種雄牛のところに、受胎しなくなった牛を送って、一ヶ月くらいずつ置いて、種付けしてもらったらどうだろうという話しをしてみた。
 種雄牛の管理は、お金がかかるから、利用している人でそれを分担するとなると、利用者が増えることは負担が減って良いのではないだろうか? 沢山利用している様子で無ければ、もしかしたら受け入れてくれるかも知れない。もちろん、その島の利用者さんと違って、お世話に行けないのだから、負担金が割り増しになるのもしかたないと思っている。提案が、上手く受け入れられたら、いろんな問題が解決するのだけど・・・。