「今年は、発情が長引く傾向にある。」
 先輩授精師の、発言である。発情を発見してから、種付け適期になるまでの時間が、例年より半日ほど遅れる事例が多いというのだ。
 異常気象などがあったわけでも無いのに、飼養形態が違う島まで、同じ現象が起こるとは思えないのだけど、マウンティングされてジッとしている状態(スタンディング)を発見して一日経っても、まだスタンディングしている牛が見受けられ、驚いている。
 今日の種付けは、昨日の朝スタンディングしていたのに、今朝もまだ乗られていた、赤10おとひめだった。内診したら、左の卵巣にぷっくり膨れた卵胞らしき物があり、たぶん種付け適期だったと思う。
 ストローの解凍時間を短くし、狂った温度計を正しい物に替えてから、妊娠してくれるようになったけど、たいていは出産後間もない牛が多く、長期にわたって不受胎だった牛は、なかなか着かない。今後は、これらの牛をどうするかが課題である。
 
 種付けした後、湾放牧地に行って、我が目を疑った。いつもの三頭が、採草地に出ていたのだ。そして、俺を見つけると、本当に嬉しそうに跳ねながら駆け寄ってくる。どこから出ているのだ? 昨日の対策では、十分でなかったということか?