徒労

 久美次郎は、昨夕ストマックチューブでミルクを飲ませたから、今朝はお腹が空いていないかも知れない。そう思いながら、牛舎に行った。昨日は、半狂乱で母親を呼んでいた久美次郎だけど、今朝は大人しかった。
 絶食による体調悪化を恐れて昨日強制的に飲ませたことで、もしかしたら事態を長引かせてしまったかも知れない。ちょっと後悔する。
 ずっと抵抗していても、飲み始めると一気に飲むものだから、とりあえず二リットル作って飲ませはじめるが、昨日より抵抗が大きい。顔をねじり、ひっくり返りそうな体制に体を捻ってまで、ほ乳瓶の乳首を吐き出そうとする。口の中に流れ込んだミルクを、下で押し出す。まるで、汚物を口に入れられたかのように・・・。
 俺には、何でここまで抵抗するのか解らない。一度ちゃんと飲んだのだから、飲む行為は出来ると言うことだ。問題は、人工のミルクを、飲み物と認めていないということだ。
 他の作業を進めながら、合間に何度も何度も挑戦し続けたけど、徒労に終わった。
 
 ただでさえ、一人で仕事を抱えているのに、一頭に時間を占有されてしまうと、俺が出来ることが極端に少なくなってしまうのだ。
 そんな中、昨日は妊娠牛にワクチンを打ちに行った。効率を考え、一昨日削蹄したせんとせなを、湾放牧地に引っ張って連れて行った。帰りに、臨月の緑2しげふく7を連れ帰る予定だった。
 せんとせなを放し、他の若牛達と一緒に行動したのを確認して、大浦放牧地の妊娠牛を訪ねた。
 だけど、一頭もいなかった。連れ帰るはずのしげふく7も居なかった。みんな黒島崎放牧地のスタンチョン近くに集まって、誰も帰ってこなかったのだ。こういうのって、調子が狂うのだ。 
 
 今日は、車で行ったのだけど、とりあえずワクチンは接種した。でも車だったし、鹿児島に行く船に用事があったので、連れ帰るのを断念した。
 
 昼からも、ミルクを飲ませる努力をしつつ、トレーラーの溶接をした。
 溶接面を綺麗にしないと、俺のような下手くそには難しいのに、デコボコのまま強引に溶接した。壊れたら、また溶接すれば良いのだ。
 久美次郎は、暗くなるまで飲ませようと努力したけど、頑として飲まなかった。明日の朝に期待しよう!