モトツボクミコ出産

 頑張っても、波に乗らないときもあるんだ。
 サーフィンとかの話しではなく、仕事の話し・・・。ルーティンワークだけやっているなら、何も悩むことは無い。だけど、溜まっていく仕事を少しでも進めたり、牛の飼い方について新たな挑戦や改良をしようとするには、強い気力と絶妙のタイミングが必要だ。必死の気力で仕事に取りかかっても、出鼻をくじかれると波に乗れないこともある。
 
 先日壊れてしまった家畜運搬用のトレーラーだが、急いで溶接修理しなければならない!
 溶接の外れた面を見たら、骨材は溶けていなかったので、高出力が求められるし、太い溶接棒が必要だ。在庫で持っているのは2.0mmの物だ。それでも、家庭用の低出力溶接機には荷が重い太さだ。
 誤魔化しだけど、200V用に改造した溶接機を、ブレーカーに直接繋い使うことにした。
 仕事の合間に、いろいろ準備を整え、電源が届く場所にトレーラーを引っ張っていこうと思ったら、トラクターのセルが回らなかった。充電する。
 そろそろエンジンがかかりそうな状況になってきた頃には、暗くなりかけていた。見回りに行ったり、種付けをしたり、出産段取り通報が出ているモトトボクミコの助産準備をしたり・・・。
 いよいよ始めるかと思って、溶接の時に使う面を取りに行ったら、すでに朽ち果ててて、防護ガラスが固定できなくなっていた(T_T)/~~~ もう一つあった面を探したが、暗くて見つからなかった。
 こうやって、波に乗り損なうのであった。
 
 もとつぼくみこの出産は、なかなか進まなかった。
 駆けつけ通報が来たのは二時頃なのだが、二次破水したのは五時頃で、一旦食事を済ませてから助産に入った。子牛は、足がとても太く、大きな雄だと解った。産科テープをかけて引いたが、まるで動かなかった。仕方なく、滑車を使う。八倍の力で引っ張れる滑車の助けで、ようやく子牛が出てきた。そーっと出したので、へその緒が切れていなかった。短くなりすぎないように、慎重に切った。
 生まれたのは、とても大きな雄だったので、久美次郎(華春福)となった。
 モトツボクミコは、はじめ子牛に近寄ろうとさえしなかった。餌や米ぬかを振りかけ、舐めに行かせようとしたが、汚物でも落ちているかのように、避けて通った。
 仕方なく、俺がバスタオル3枚を用いて、子牛の全身についた羊水を、ぬぐい取った。体を意識してこすってやり、胃腸の動きを目覚めさせる。
 人工初乳を溶かしに行った。帰ってきたら、モトツボクミコが子牛に興味を持って、ちょっと舐めていた。しばらく様子をうかがう。
 ちょっと待って考えたが、やっぱりせっかく溶かしたから、人工初乳を飲ませた。これを飲ませていると、母親の初乳を飲めなくても、とりあえず免疫を獲得できるから、安心なのだ。