忙しい日

 作業を終えて替えると、もう何もする気力が残っていない。とりあえず食事して、一時ベッドに転がり、目が覚めたらシャワーを浴びて、ぼんやりしてまた寝る。本当は、書類仕事をしなければならないのだけど、毎日持ち帰るだけで、一切進まない。困ったな(^_^;)
 
 朝から、大急ぎで餌をやり、妊娠鑑定していない牛を呼び集めたり、種着け予定の牛を見てもらう準備をした。
 人工授精師の免許を取ったけど、本当は先輩授精師に着いて勉強しないと、独学ではなかなか進歩しにくい。俺の牧場は、沢山の牛が居るけど、仕事が忙しすぎて、種付けに時間を取って技術向上を目指すことが出来ないのだ。発情が何頭も居たら、内診もしないで、さっさと頚管鉗子法で着けてしまう方が、手っ取り早いと逃げてしまう。だから、全然上達しない。獣医さんが来る日に、種付けの牛がいると、技術向上の絶好のチャンスである。
 と言っても、獣医さんが内診した牛を、直後に内診するような暇は無いのだ。妊娠鑑定や種付けの後には、母牛登録の為に、牛を四頭港に連れて行かなければならない。ルーティンワークだって、俺一人でしなければならない。
 だけど、内診して言われた内容を覚えておいて、午後から着けてくれといわれた牛は、着ける前に内診したことで、卵巣の様子を診ることが出来て、どの程度の大きさになっていたらいい卵胞か、判断材料になった。
 温度計が狂っていたのと、解凍時間が長すぎたのとで、種が着かない時期があったが、不受胎が長引くと、母体にいろいろ問題が生じることが多い。脂肪が蓄積したり、卵巣の状態が悪くなったり、子宮内に炎症が起こったり・・・。今後は、そのような牛を治療しつつ受胎させなければならない。だから、卵巣の内診が出来るようになら無いと、獣医さんに報告が出来ず、治療が出来ないのだ。今日診てもらった牛は、排卵促進剤を注射して、夕方と明日の朝の二回、種付けすることになった。卵胞が小さくて堅いのだ。
 
 トレーラーを出して、四頭の牛を港に運ぶ。二頭ずつ二往復した。
 途中で、トレーラーの壁面の溶接が取れているのに気がついた。溶接面を見たら、表面をちょっとくっつけただけの簡易溶接で、まるで俺が着けたみたいだった。結構太いパイプを着けてあるので、エンジン式の溶接機か、200ボルトの大容量溶接機を使わないと、骨材の鉄を溶かせないから、ちゃんと着かないのだ。ここには、大容量溶接機を持っている師匠もいないから、自分で何とかするしか無い。気が重いなぁと思っていたら、取れていなかった反対側まで取れてしまい、その壁面に寄っかかっていた牛が、足を滑らせて落ちそうになってしまった。刈り留めをしなかったことを、後悔した。いずれにしても溶接し直すしか無かった。
 
 とりあえず、今月の妊娠鑑定で、妊娠が確認できた牛は、8頭だった。