なずなはすごい!

 今日は、気分が沈んで、働くことが辛かった。
 こういう日でも、ルーティンワークには影響が出ない。考えなくても、体は動くのだ。
 だが、そこに種着けや牛の引っ越しが入ってくると、途端に動きが鈍くなる。どんな順番に仕事をこなしていくか・・・本当は考えること無く動けばいいのだが、仕事が重なると機能不全を起こしてしまうのだ。
 
 救いは、牛達がとても懐いてくれていることだ。だから、牛の世話自体は喜びを持って出来る。
 硫黄島に来て二年半! 始めの頃、人に懐いていない牛に、俺は絶望したり、かなり危険な目に遭ったり・・・。
 手伝いに来た人が、敷きワラ交換の為に部屋に入ることを、とても恐れていた。理由は、子牛に蹴られるからだった。今は、そんな牛はいない。
 連動スタンチョンも使われていなかったけど、今は毎日使い、放すときは一頭一頭名前を呼び、頭を撫でてから放す。もっと撫でてと、頭を寄せてくる牛も増えた。
 牛飼いは、こういうことに喜びを感じることが出来る仕事なのだ。(感じない人もいるかも知れないけど・・・)
 
 哺乳ロボットを卒業したなずなと桃茂太郎を、電柱牛舎に移動させた。いつもの糖蜜を作る手間が惜しかったので、首にロープをかけて引っ張っていった。
 桃茂太郎は、電柱牛舎の手前で四肢を突っ張り、押しても引いても、一歩も動かない!って踏ん張った。これを一人で動かすのは、至難の業だ。一時的に、柱に縛り付け、なずなを引きに行く。
 なずなは、ロープを軽く引っ張って、おいで!と言うと、素直に着いてきた。訓練無しで、こんなに素直に人の言うことを聞く牛は、まずいない! 母牛として残すつもりの牛だけど、この従順さと賢さは、すごい!