嵐の大脱走!

史上最大級の台風は、まだ沖縄付近のはずだし、それほど接近するわけでも無い。台風が来ても、三島海域は屋久種子島が防波堤の役目を果たす為に、それほど高波にならないのだが、今度の台風では6m以上の高波が予想されている。こんなことって、この二年間では見たこと無い。
 何でも飛んでしまいそうな風の中では、人は存在するだけで疲労するモノだ。雨は、ときおり激しく降るが、雨量は大したことなかった。
 
 いろいろ微妙に壊れていったが、一番の被害は、哺乳ロボット小屋の壁の一部が壊れ、昼休みの間に9頭の子牛が脱走して、6頭が行方不明になったことだ。
 とりあえず、大牛舎で避難していた三頭は、小屋に戻すことが出来た。
 他の6頭は、どこに行ったのだろうか? 切り草小屋や乾草庫など、避難できそうな小屋を見て回ったけど、どこにも居ない。竹藪に顔を突っ込んで、声をかけて回ったけど、切り裂くような風や、暴れる竹のすれる音で、何も聞こえなかった。かなりの時間をかけたが、どこに消えてしまったのだろう?
 
 そのうち、換気扇や哺乳ロボットが動かなくなった。漏電ブレーカーが落ちている。激しくなった雨で、どこか漏電しているのだ。
 電気屋さんが居てくれたら、こういう時にさらっと問題を解決してくれるんだろう。ここの牧場の配線は、とても老朽化していて、被覆を剥いで接続してある導線が、腐食してボロボロになっているのだ。二年前に来たときも、それで断線していたのを、自分で直している。
 でも、漏電ブレーカーから何十メートルも引っ張ってある電線の全部を調べるのは、大変だ。こういう場合、古くなった配線を新しい物に取り替えるのが、一番良いのだろう。そうすれば、変な取り回しをしてあるところも、すっきりまとめることも出来る。
 でも、哺乳ロボットを止めないように、速やかな工事をしなければならないことを考えると、二人体制の今ではちょっと難しい。しばらくは、ごまかしごまかし使うしか無い。
 
 雨が止むまで、復旧の見込みが立たないから、手動でミルクを溶かして飲ませた。
 
 定時になり、K君には帰ってもらった途端、いろはが一人で帰ってきた。道路の方から歩いてきたので、そちらを見に行ったが、他の子牛は見えなかった。声をかけたら、トコトコ着いてきて、何の苦労も無く哺乳ロボット小屋に帰ってくれた。
 その後、ミルクを溶かしていたら、明らかに子牛の鳴き声が、灯台下放牧地の方から聞こえた。火をかけていたから、ミルクを溶かし終えてから行ってみたが、子牛は見当たらないんだ。
 本腰を入れて、灯台下放牧地を探した。すると、4頭の子牛が見つかった。ほ乳瓶で誘ったら、2頭は誘導できた。けっこうな距離を誘導して小屋に返し、元の場所に帰ってみたが、残った2頭は居なかった。
 再捜索し見つけたけれど、2頭まとめて誘導できない。引き返したときには、雨が激しくなり、しかもあたりは真っ暗になっていた。探して探して・・・。ダイビング用の強力なサーチライトで照らしたら、遠くの草むらで目が光ったような気がした。行ってみたら、かんながずぶ濡れでうずくまっていた。もうほ乳瓶には反応しなくなっていたので、手で押して誘導して小屋に返した。
 
 気がかりは、さっぱり姿が見えないなずなだ。
 どこに隠れたか、皆目見当がつかないので、一旦家に帰り飯を食う。不謹慎のようだが、俺が調子を崩しては、継続的な仕事が出来ないのだ。そして、そのうちなずなも腹が減る。
 11時頃、住宅地は風も静かになっていたから、見つけやすくなったかと思って牧場に上がってみた。ところが、上は真っ盛りの暴風雨だった。車のエンジンをかけたまま、あたりを捜索してみたら、エンジン音を聞いたなずなが、どこからともなく現れた。こちらが探せないときは、相手に見つけてもらうと言う方法もあるのだ。なずなは、人が好きだから・・・。
 と言うことで、何とか全員回収できた。やれやれ、これでやっとシャワーを浴びれるのだ。