ロール集め

 K君が、
「ルーティンワークは、全部僕に任せてください!」
と言ってくれたので、溜まっていた仕事に専念した。
 
 まず、乾草庫の屋根に登り、雨漏りを修理した。先日の台風で、かなりルーヒングが剥がれて、盛大に漏っているところが数カ所あった。コールタールを塗り、防水紙を貼り付けて、傘釘で固定し、さらにタールで固める。
 雨漏りの下に乾草を入れると、あっという間に腐ってしまうのだ。これで、しばらくは大丈夫!
 
 次に、ロールべーラーのストリングカッター(ロールをしばる紐を切るカッター)が切れなくなったので、市販のカッターナイフの刃を取り付けた。ちょっと手を切ってしまった。牧草の時期、俺の手は切り傷や打ち傷で、デコボコしている。傷口を触ると痛いけど、たいていいつ怪我をしたのか覚えていないんだ。
 昼飯も食わずに、そのままロールしに行った。灯台下採草地は、チガヤが良く茂っていたので、レーキで集めた草の列が分厚く、トラクターの腹につっかえて、用心しないと機械を壊しかねなかった。日が沈むまで作業して、沢山ロールが出来た。俺は、数を数えるのが苦手で、途中で解らなくなるのだ。(アホ!)
 
 一旦家に帰り、何か食えるモノを探した。野菜の薩摩揚げがあったので、焼いて食べた。アイスコーヒーに、アイスクリームを乗っけて食べた。
 ネットで天気予報を見たら、明日は雨らしい。せっかく丸めた牧草が、雨に当たって水を吸って腐ってしまうのは、耐えがたく辛いモノだ。
 堆肥を撒き、何十万円分も肥料も撒き、何時間もかけて刈り取り、何日もテッターでひっくり返して乾かし、埃で顔も泥だらけになり、目に入って痛い思いをしながら作った乾草のロールは、それだけの俺の思いが詰まっているし、その品質は来年の経営を左右する大事なモノだ。
 徹夜して集めることにした。
 頭にヘッドランプを付けて、ユニックで集めに行った。11個積んで帰り、ホイルローダーで乾草庫に積み上げていく。
 ここで、予期せぬ事件が発生した。
 何個目かのロールをベールグリッパーで挟んだら、突然油圧ホースから油が噴き出した。
 よく調べたら、ホースに穴が空いているのではなく、ホースの端を金具で固定しているところから噴き出している。
 この機械は、まだ買って一年しか経っていないから、自然に漏れることは無いと思う。バケットを交換するとき、油圧ホースを外し忘れて、100kg以上あるグリッパーを油圧ホースで引きずったりすると、簡単に壊れるけど・・・。
 実際、そういう現場を目撃したことがある。それで、だんだんダメージが重なって、今日使っているときに噴いてしまったと言うことなのだろう。俺には、誰が壊したなんて解らないが、修理しないと使えなくて困るのは、俺なんだ。まだ、利用規程が決まっていないので、俺が修理することになるだろう。
 でも、今は夜中で、明日には雨が降る。だましだまし使うしか無い。油圧は強力で、テープなどでは、気休めにもならない。それどころか、噴き出す油の圧力で、テープが切断されていた。油煙が拡散するのを防ぐ為に、タオルを巻いたけど、繊維が噴き破られてしまっていた。かける圧力を調整して、持ち上げられるギリギリの弱さで握れば、油を噴かないけど、しばしばロールを落っことした。
 機械の調子が悪いと、作業速度が極端に遅くなってしまう。
 それでも、コオロギやマツムシが盛んに合奏する中、満天の星空を眺めながら、ロールを集めた。屋久島や口永良部島の方で、稲光が盛んに光っているのが見えた。硫黄島には、まだ雷雲がかかっていなくて良かった。
 でも、もう若くないんだ。三時を過ぎた頃から、だんだん吐き気がするほど疲れているのに気がついた。栄養ドリンクとかアイスキャンデーとか水筒の麦茶を飲みながら、淡々と作業を続けた。
 夏の大三角形の、はくちょう座が頭から海に沈み、さそり座が沈んだ後に、冬の星座であるオリオン座が出てきた。木星が明るいと思っていたら、さらに明るい金星まで出た。もうすぐ夜明けだ。
 四時半まで頑張ったけど、これ以上やると機械を壊したり、事故を起こしそうだったので、家に帰った。
 泥だらけの体を石けんで洗ったら、泡が黒くなった。午前中は、休ませてもらおう!