8月競り

 台風は、予想外に早く通り過ぎ、朝には雨が止んでいた。一応、傘を持って6時半には役場まで歩いて行ったが、雨はぱらっと落ちてきただけだった。大荒れだったら、お客さんが来ないから、競りの相場が暴落することも予想された。天気が回復して、少しでも多くのお客さんが来てくれる事を期待した。
 競り場に到着すると、すぐに着替えて牛を繋ぎに入る。俺は、人より多く連れてくるから、人より沢山働かなければならない。俺一人で10頭捕まえて、繋いだ。札を付けて、競り番号の場所に連れて行く。
 肩を痛めた松島太郎も、頑張って所定の場所に歩いて行った。ちょっと紐を長くして、座りやすくしてやった。
 つなぎ終えたら、いつも通り、牛磨きだ。体に付着した運古を落とし、つやを出そうとブラッシングする。
 
 競りが始まった。始まりの相場としては、それほど悪くない。
 うちのトップバッターは、耳が奇形の壱太郎(益金平)だ。日令313日で体重は259kgと、体も小さい。同じ体重の雌より、評価は低かった。
 つむぎ(岡茂福)は、304日で258kgだったが、三十万円は超えた。
 茂福太郎(岡茂福)は、273日で295kg。四十万円を超えて、うちでは一番高かった。
 さて、問題の松島太郎(岡茂福)だ。318日で273kg。肩を痛めていなければ、もっと大きくなったはずで、人懐っこくよく食べる良い子だった。肥育をする人が、『自分なら二十万円でなら買う。』と言っておられたのだけど、その通りの値段で落札された。全く評価されないこともあり得たので、とても嬉しかった。腕の良い肥育屋さんで、可愛がって欲しい。頑張れよ!
 その後、お客さんはどんどん帰ってしまい、会場は人が居なくなってしまった。いつもなら、立ち見の人が多いのに、半分くらい空席って・・・。
 登次郎(岡茂福)は、303日で295日。雄としてはそれほど成長が良いわけではないけど、四十万円には達しなかった。
 人はさらに帰り、お客さんは数人しか居なくなった。
 最後に登場したのは、うちで一番良い宮次郎(益金平)だ。従姉妹から、BMS12が出ている。289日で327kg。でも、競るお客さんが居なかった。まさかの、四十万円割れ・・・。
 
 こういう時もある。宮次郎でなければ、もっと値崩れしたかも知れない。