片道日帰り航海

 台風が来ていて、2日出航予定の船は、欠航した。3日に、日帰り片道航海になれば、乗船できる事になった。
 予定通りの航海であれば、5日まで島には帰れないはずだったので、入院中の父を見舞いに行く予定だったが、動けなくなった。波予報を見る限り、通常なら絶対に欠航する高波だった。だが、3日か4日を逃すと、次の台風の影響でまた、航行できない可能性が高かった。だから、多少無理してでも、どちらかは出ると言われていた。
 朝7時に、片道日帰り航海が決定された。
 急いで荷物をまとめ、カフェでモーニングを取り、ミスドでお土産のドーナツを買い込み、港に歩いた。風が強く、火山灰が舞い上がった。
 よく寝ていたせいか、船が揺れたという記憶は無い。ただ、白波が立っていたのを覚えている。
 
 牧場に行ったら、大牛舎の壁面に着いたひさしが、風で壊れて崩れていた。鉄骨が腐食し、強風に耐えられなかったのだ。
 他にも、壁に大穴が空いた場所が、何カ所かあった。板を、ステンレスの釘で固定してあるのだが、ステンレスは木になじまないから、だんだん抜けやすくなるのだ。硫黄島では、鉄の釘は完全に風化してしまうから、使用することが出来ない。ステンレスのねじ釘を使うしかなさそうだ。
 近所の牧場で、屋根が飛んでしまったと聞いたので、見に行った。
 屋根を留めているネジが、鉄製だった為に、風化して固定できなくなっていたらしい。ここは、単なる離島ではなく、火山の島なのだ。金属の腐食は、他所とは比較にならない。
 屋根の骨組みを見ながら、修理方法を考えた。鉄骨は残っていたから、半割の木材を抱かせて、スレートをステンレスのねじり傘釘で固定していけば良い。
 業者に頼むと、300万円くらいかかるらしい! 作業員の出張費や宿泊費も加算されるから、相当の高額になってしまうのだ。それほど難しい作業でないから、島の人達が協力すれば、もっと安価に直せるのだけど・・・。一応、役場に提案してみた。
 後片付けに協力したい意向を伝え、K君をお手伝いに派遣した。