真夜中のラップ

 天気予報は、突然変わってしまうのだ。ずっと晴れの予報だったのに、28日の天気が雨に変わっていた。
 草が乾いて、丸めようと思っているときの雨は、ダメージが大きいのだ。降らないかも知れないが、もし降ったらとても風味の悪い乾草になる。
 悩んだ末、全部今日丸めて、できる限りラップすることにした。牧草収穫は、来年一年間の子牛の健やかな成長を占う、とても重要な仕事だ。良い牧草が採れたら、子牛は喜んで食べて、大きくなるだろう。
 頑張ることにした。
 
 夏草のギニアグラスは、まだ水分が豊富な匂いが残っていて、ラップしないとすぐに熱を持って黴びるだろう! 大浦のチガヤは、あとほんのちょっとで、とても良い乾草に仕上がるところだった。昨日、もう一度テッターをかけていたら、乾草でも充分に仕上がったと思う。
 刈ってある牧草を全部レーキして、フォード6600にロールべーラーを取り付けて、ギニアグラスから丸めていった。とりあえず、19個出来た。
 
 大浦の採草地に行った。たっぷり堆肥を撒いたせいか? チガヤのところはとても草の量が多かった。何とか、雑草対策をしなければならないと思った。
 草の量が多いから、ロールべーラーはすぐにいっぱいになった。
 フォードは、パワーステアリングのオイルが噴き出し、ハンドルが重くなってしまった。北海道で使っていたフォード7600も、パワステのオイルが漏れて、急峻で複雑な地形のため、絶叫しながらハンドルを回したことがあったっけ・・・。
 6600は、それほど重いトラクターではないし、平地なので絶叫する事はなかった。
 沈んでいく夕日を見ながら、何とか全部丸めることが出来た。ちょっと湿っているから、倉庫に入れたら、少しカビが生えるかも知れない。
 
 朝から、ろくなものを食べていなかった。一旦家に帰り、なんか腹に入れた。水も補給した。
 
 クーラーの効いた部屋に、ずっと居たかった。
 フォード6600は、パワステが効かないだけで無く、ライトがつかない。ラップ作業を、懐中電灯でするのは、とても気が重い。
 でも、やるしかない! ヘッドランプを探したが、さすが中国製! 肝心なときは絶対に使い物にならない。スイッチ系統がちゃち過ぎる。ダイビング用の、強力サーチライトを右手で持ち、ハンドルは両手で回した。月が出ていたので、月明かりを頼りにトラクターを移動させた。
これって、明るくてパワステが壊れていなければ、別にどうという作業でもないんだ。でも、悪条件が重なると、作業続行には強い意志とエネルギーが必要だった。
 ギニアグラスをラップした後、大浦採草地のチガヤをラップし始めた。
 ここで、さらに機械の調子が悪くなった。ラップフィルムのテンションが足りず、ゆる巻きになったのだ。これでは機密性は保てない。この機械のマニュアルを見たことは無いのでよく解らないが、暗闇の中、およその見当を付けて修理にあたり、30分後にようやく動かせた。なんて苦労しているのだろう? 何度か、止めようと思った。でも、できる限りのことはしようと想って頑張った。
 夜中の三時になった。月はとっくに沈み、大きな流れ星が、三つ流れた。
 頭痛が酷くなり、作業を断念した。後は、乾草として早めに使ってしまおう!