削蹄と去勢手術

 朝は、なんも放送が無かったから、船は普通に出ると思っていた。7時半の約束だったから、K君には俺ンチまで歩いてきてもらい、ギリギリに水道ポンプのスイッチを入れた。
 獣医さんが言うには、天候の悪化が予想されるから、一時間出航が早まったとか・・・。俺だけで無く、山で働いている人達は知らなかったけど・・・。
 大浦を看て欲しかったのだけど、放牧地の奥深くまで行ってしまった牛群は、探しに行っても見つからなかった。
 ここは、妊娠牛専用の放牧地にしよう!
 小屋下放牧地の二頭を、妊娠鑑定してもらう。だが、二頭とも留まっていなかった。
 
 雨の中、削蹄をすることになった。削蹄をすると、大抵筋肉痛になったり腰痛になったり・・・。俺の三倍以上の体重を持つ子牛を、渾身の力を込めて引っ張ったりしばったり・・・。まさに、肉体労働者なのだ。
 雨の日は、蹄が柔らかくなっていて、切りやすいのだ。でも、相変わらず子牛は脚を上げようとすると、抵抗して暴れるのが多い。ときどき、危険すぎて断念することもある。
 
 去勢手術をした。
 後一週間で、子牛の出荷の為に鹿児島に行くが、その間に子牛の移動をしたいので、あらかじめ去勢手術などは終わらせておく必要があるのだ。
 以前と違うのは、手術の為に俺が入ると、子牛たちは遊んでくれるのかと思って近づいてくることだ。そんな可愛い子牛を、容赦なくしばりあげて、無麻酔で去勢手術・・・残酷な男なのかな? 去勢手術では、子牛は鳴き声一つあげない。
 去勢手術を始めると、いつの間にかカイトがウロチョロしている。お目当ては、新鮮な睾丸だ! ところが、今日はその睾丸を欲しいと言う人が居たので、取り分けることになった。K君が睾丸をぶら下げてウロチョロしていたら、業を煮やしたカイトが飛びついて、一つ食べられてしまった。
 睾丸は、全部で五つ袋詰めして、冷蔵庫に入れたのであるが、持ち帰るのを忘れたので、結局はゴロウとカイトのおやつになるのであった。