富士太郎は、知恵遅れか?

 牛は、馬ほどではないが、それなりに頭脳もあるのだ。人間も、個別に認識できる。
 体重10kg程度で生まれてきた富士太郎は、相変わらずちっこい。適応に不安があったので、哺乳ロボットに預けず、最後までほ乳瓶でミルクを飲ませた。だから当然と言えば当然なのだが、人間が大好きである。
 特に、K君が糞出しの為に入ると、ひたすら付きまとい、仕事にならない。だから、K君は糞出しの時、富士太郎をしばってから作業する。
「富士太郎って、知恵遅れなんですかね?」
彼は言うのだが、知恵遅れな子牛は、人に興味なんて示さないし、イタズラできない。
 俺の判断は、富士太郎は頭がとても良いと思っている。
 水桶にホースで水を溜めているとき、富士太郎だけは必ず顔を出して、口で水を受けたり、ホースを噛んで引っ張ったり・・・。頭の悪い子牛には、好奇心やイタズラ心が育たないのだ。
 顔だって、見るからにイタズラっぽい!

 朝から雨が降っていたが、赤22きぼうの種付けを敢行した。
 大浦放牧地は、広すぎてなかなか牛が集まらない。雨が降っていたら、尚更だ。それを、大声選手権のように声を枯らして呼び続け、やっとこさっとこ集めることが出来た。きぼうはロープで枠場に連れて行く。