いい顔

車を借りて、五家莊に行ってみようと思った。実は、俺はまだ行ったことが無かったのだ。
 平家の落人の里として知られる五家莊は、道が険しく、訪れるのが困難だった。今は、良い道が出来たらしい。
 
 出かけようとしたら、俺が東京に行きたいと思っている原因の人と、連絡が取れた。
 遠距離恋愛は、密な連絡が重要なのだ。仕事中にするわけにはいかないが、遊びに行く予定なんてキャンセルした。
 
 その後、ご無沙汰している親戚の家を訪ねた。
「こんにちは。どちら様でしょうか?」
 何十年ぶりに会うから、解るはずも無いか? 名乗って再会を懐かしんだ。子供の頃、とても可愛がってもらった人だ。
 一番上の従兄弟にも会った。
 八代は、い草日本一で、畳表生産でとても潤っていた。ところが、中国にい草の苗と技術を持ち出した者(商社?)が居て、大打撃を受けた。起死回生の優良品種を作って、品質で差をつけようとしたのに、この苗も流出し、かなりの農家が、い草を作らなくなったようだ。
 従兄弟は、新しい作物を作り、自ら販路を開拓することで、苦境を脱出していた。自信が満ちていて、とてもいい顔をしていた。良かった!
 
 八代の、懐かしい風景を探して、走り回った。
 球磨川の堰に行ったり、八代港に行ったり・・・。臨港地には、いろいろな施設が出来ていて、驚いた。
 港の外れに行ったら、ちょうど干潟が見え始めたところだった。幼い頃、潮干狩りはとても楽しかった。アサリ・ハマグリ・カニ・タコ・マテ貝・シャコの一種・・・俺が見ていたところは、今は休漁になっていた。捕れなくなったらしい。
 球根相手に、干潟の写メを送ったら、潮干狩りをしてみたいと返事があった。干潟の自然回復能力は高いので、きっとまた回復してくれると信じている。そのときは、一緒に行きたいと思った。
 
 夜は、バラハタの刺身だった。
 俺が硫黄島を出る船に乗せて、宅急便で送ったのが、やっと今朝届いたのだ。
 なんと言えず、甘くて美味しかった。