金環食

 金環食の当日なのに、雨が降っていた。雲の切れ間が無いか願ったけれど、家の外に出るのもはばかられる雨に、断念した。
 硫黄島小中学校には、テレビ局がやってきて、観察の様子を中継するはずだったのだが、観ることが出来なくて残念だった。うちの牧場長は、インタビューされて全国放送されたらしい。
 
 俺の部屋を掃除してくれた友人は、今日の船で帰る予定だった。
 朝から、税務申告書類を慌ててまとめてもらった。海は、風が強く波が高かった。普通なら、船は欠航する天候だ。だが、島から鹿児島に向かうフェリーは、よほどのことが無いと欠航しない。
 船と水が苦手な友人は、波が高いと聞いて怖がって、迷った挙げ句帰宅を延期した。
俺は、税務申告書類を郵便受付に間に合わせることが出来ず、船の乗り組み員の方に鹿児島のポストに投函してもらった。
 
 部屋が綺麗になったところで、牧場も綺麗にしたくなった。
 とりあえず、空のドラム缶を港に運んだ。20本もあった。雨の合間を縫ってやったが、けっこう濡れてしまった。残った物を整理したら、乾草庫の入口付近に、かなりの空きスペースが出来そうだ。
 片付けが苦手な俺が、『綺麗にしよう!』なんて言った物だから、K君は目を丸くしていた。
 
 恋人岬に行く途中、崖の上に橋が架かっている。
 この橋の上から、ミサゴの雛が見える。肉眼でも見えるが、双眼鏡を使うと3羽のミサゴが居るのだが、たぶん巣立ち直前と思う。
 上空を、親鳥とおぼしきミサゴが飛んでいて、見ている間に一羽飛び立った。
 ミサゴは、海の中にダイブして魚を捕る猛禽類で、狩りを覚えるのにかなりの時間を要するから、巣立っても親鳥からエサをもらいながら、命をかけて指導を受けるはずだ。ちゃんと覚えないと、餓死する。鳥の世界も厳しいのだ。