削蹄

 硫黄島は、今日も晴れ。大部分の島の子供達は、今日の船で帰ってくるらしい。
 
 今日のメインな仕事は、削蹄と鼻輪つけだ。
 今回の子牛は、ほ乳瓶に吸い付きたがる牛だから、面倒がらずに糖蜜を作ってやったら、もっと安全で楽に作業できたかもしれない。
 思いついてもやらないのは、思いつかなかったのと同じなのだ。
 柵に近づくと、どうしたの?と寄ってくる子牛たちに、ロープをかけておもてを着け、力任せに枠場まで引っ張っていく。
 茂四郎は、大人しいくせに、削蹄しようと前足を上げると、体をねじって暴れ、大変苦労した。転倒防止の為に腹の下に張ったロープの上で転がるから、事態は最悪になり、どうやったらそういう体位になるの?と頭をかしげたくなるような悲惨な状態になり、削蹄どころの騒ぎでは無かったりする。
 うちの枠場は錆びていて、この中で暴れると、子牛は傷だらけになって商品価値が下がる。削蹄作業は、一人でやらずに、牧場長に牛をなだめてもらいながらやった方が、経済効果が高いかもしれない。糖蜜を用意したら、もっと大人しかったかも?
 
 新規就農希望者の為に、俺が使っている放牧地の奥の部分に、牛舎と採草地を作る事になったらしい。
 調べてみたら、うちの牛が強い日差しを避ける木陰のある場所で、ここを使えなくなると、俺の牛が熱射病になる事が解った。20頭分の簡易避暑小屋があれば良いのだけど、予算が付かないらしい。5〜6mの単管を20本くらいと、クランプを支給してくれたら、自分で作るけど・・・。それもダメなら、俺も自分の牛を死なせるような要求に、首を縦に振る事は出来ないんだけど・・・。
 
 北海道から連れてきたスズコが、また発情していた。
 この子は、頚管鉗子法で種付けすると、踏ん張って中が見えなくなるので、発情していても種付けが出来なかったのだ。
 口にヘラを入れて気を紛らしている間に、素早く子宮外口を鉗子でつかんでしまい、それから精液を溶かして種付けをした。
 38℃の温水から引き出して、頚管に差し込むまで、約10秒しかかかっていないから、これで着かなければ原因は牛にあるかもしれない。