ラップサイレージ

 今日は、物静かだった俺の友人の、2回目の月命日だ。
 彼が北海道の牧場に来たのは、9年前かな? 白い去勢の山羊だった。つけた名前は、ジョン・レノン。すでに、そんなに若くは無かった。
 以来、ちゃんと自分の考えを持っているけど、それほど多くを主張せず、穏やかな関係が好きだった。
 近年、毛が抜けて歳をとったなぁと感じていたが、それほど体調が悪そうなそぶりも見せなかった。
 ある日、道草を食っているジョンをつなぎ替えにいこうとしたら、竹藪に自分で作ったベッドに、眠るような姿勢でうずくまっていた。苦しんだ様子も無く、静かに逝ってしまったようだ。お疲れ様。
 
 イタリアンライグラスは、もうちょっとだった。午前中に、三回テッターをかけてひっくり返し、水分を飛ばした。
 水分量の多いイタリアンライグラスは、簡単には乾かない。だから完全な乾草にしないで、ラップフィルムで包み込み、サイレージにするのだ。牧草の漬け物なのだ。
 水分量が少なめで、空気を完全に遮断できたら、とても良い匂いの美味しそうなラップサイレージが出来るが、フィルムに穴を空けてしまうと、強烈な臭いの凄いゴミになってしまう。硫黄島には、カラスが多く、ちょっと目を離した隙に、穴を空けられてしまうことが多い。
 だから、ロールを始めたら、一気呵成にラップをして倉庫にしまうことが、良質のラップサイレージを作る条件となるのだ。


 出来るだけ水分量を減らすために、時間稼ぎをする。
 大牛舎の親牛側は、敷料の上に牛糞が堆積し、それが乾燥してフカフカの良い敷物になっていた。だが、一年も放置したら、量が増えてあふれ出すまでになっていた。
 出入り口の開閉が出来ない!
 牧場長から苦情を受けて、厚みを減らす事になった。
 全部はぎ取るのは簡単だ。だが、半分だけ取って、しかも平らで居心地が良い状態って、出来るかどうか不安だった。
 何だって、挑戦してみないと、何も前には進まない!
 やってみたら、意外に上手くいった。50cmほど積もった牛糞の敷料を、20cmを残してはぎ取ることに成功した。良く発酵していて、臭いも無い!
 
 半ば乾燥したイタリアンライグラスを、レーキで集めて、ロールした。全部で17個出来た。すぐに、ラッピングマシンを浸かって、フィルムで包み込んだ。間髪を入れずに、ホイルローダーで倉庫まで運び込んだ。すでに数羽のカラスが来て突いていたが、今年は穴を空けられなかった!