仕事に対する誇り・・・

 あまりこういうことを書きたくないのだが、人々の税金で給料をもらっている公務員は、その言動に自覚と責任が必要だと思っている。
 うちの従業員さんは、一見人当たりが良く何を言われてもハイハイと言っているが、実は傷ついたことを胸の中で反芻し、なかなかそのキズから立ち直ることが出来ない。
 去年の暮れに、
「あんたに出来るのだから、誰にだって出来る!」
と、飛行場管理をしている役場職員に言われた言葉は、相当なショックだったようで、ことあるごとに口にしている。

 昨夜から、隣の牛が脱走して、飛行場に逃げ込んだ。飼い主が呼んでも、藪の中から出てこないために、捕まえることが出来なかったらしい。

 今朝になって、当然牛が居るのに、管理人は気がついたはずだ。
 でも、船が入港する昼過ぎにようやく、牛が脱走しているから手伝えと、ジャンベの若者や観光できたお客さんにまで声をかけていたらしい。

 結局、俺に電話がかかり、駆けつけてみた所、現場にいたのは、飼い主と、うちの従業員さんと、観光客なのに手伝わされている人と、駐在だった。
 飛行場から、うちのイタリアン畑に移動した牛は、従業員さんにとって大切な牛が食べるべきイタリアンライグラスを、もりもり食い、踏み荒らしていたそうだ。
 駐在と人の良い観光客さんは、牛が逃げそうな場所に立たされ、
「そっちに牛が逃げていくから、逃がさないように守って!」
と言う従業員さんの指示もむなしく、牛が走ってくるとひらりと身をかわしてしまったらしい。素人さんには、無理だ。牛は、再び飛行場へ・・・管理人はいない・・・
「誰にでも出来る仕事では無かったの?」
鼻息の荒い従業員さんだが、それをぶつける相手は、この人達では無い! 飼い主がロープをかけた所で、従業員さんが鼻輪をつかみ、何とか一頭確保した。
 俺はそこにようやく到着した。
 もう一頭の牛は、俺の牛舎に向かったので、長いロープを竹に取り付け、首にかけて、飼い主がロープをつかんで踏ん張っている間に、鼻輪をつかんで確保した。
 やれやれだ。

 俺は、そのままイタリアン畑で収穫作業に入ったので知らなかったが、駐在は
「○○が、ちゃんとエサをやらないから、こういうことが起こる!」
と怒っていたそうだ。
 今の時期、放牧地には牧草が少なく、まだ新芽も伸びていない。いくら餌をやっても、なかなか追いつけないから、うちも必死に牧草を運んでいる。○○君の放牧地は、頭数の割に広いから、草は足りているかも知れないが、牛は柵が弱っている場所を見つけると、エサがあっても脱走するものだ。
 牛が居る現場に赴任したら、俺が駐在だったら、牛の扱いを覚えるけど・・・。それが、地域に根ざし、住民を守る駐在としての勤めだと思っているから・・・。

 それより、観光客まで巻き込んでおいて、自分は何もしない管理人って何?
 不正をして、他に行き場が無くて硫黄島の飛行場に流されて来たのに、毎日一時間以上も俺の仕事を邪魔する無駄話(愚痴や悪口)に来ていた。俺も小さい島だから、邪険にも出来ないので、ちゃんと話を聞いていたが、牧草収穫の時期になり、忙しくなるからあまり話を聞けなくなるかも?と言ったら突然、子供のような意地悪を始めたので、怒鳴りつけて二度と俺の所に来ないようにした。すると、俺の不在の時にやってきて、従業員さんの邪魔をしたり、畜産専用の機械で飛行場では使わないようにと言われている機械を、勝手に持って行ったり・・・。

 公務員って、住民に奉仕するために、大切な税金で雇われているのであり、害をなすなら辞めるべきだと思うのだが、俺は間違っているだろうか?
 自分の仕事が無いから、人の仕事にケチをつけ、本来管理人がするべきフェンスの修理を指示されても、誇りが無いから逃げている。そういう人に、仕事を馬鹿にされても、気にする必要無いのに・・・。

 今回の事は、牛の脱走という、それほど珍しくない事件から、いろいろ考えさせられた。
 一般の人にとって、牛は怖くて扱えるとは思えない動物に見えるだろう。とくに、今日の事件をみたら、そう思ってしまうかも知れない。
 でも、遠くから飼い主を見つけたら逃げる牛は珍しく、大抵は半日も脱走していたら、寄ってくるのがほとんどだ。
 放牧地を歩けば、犬みたいに後ろをついて歩く牛も多いし、採草地に脱走した牛を、追い込むのではなく名前を呼んで放牧地に誘い込むことだってできる。
 牛は、飼い方次第で、可愛くなるのだ。これは、誰にでもできる仕事ではないと思う。