見知らぬ子牛

 牧場体験のホークを、従業員さんの家に迎えに行き、坂本温泉の荒波を見てから、牛舎に行った。

 牛舎には、見慣れぬ子牛がいた。
 シゲコとトマトの部屋だったので、当然出産を控えたトマトの子と思った。でも、世話をしているのは1週間前に出産を終えたシゲコで、トマトは近づくこともできないでいた。トマトの子なら、ずいぶん早産だ。取り急ぎ、人工初乳を準備して飲ませていたら、柵越しにイズミが顔を寄せてきた。どうやら、イズミが母親で、出産後柵を越えたらしい。
 子牛は、雄だったので和泉太郎(安平幸)。イズミの出産予定日は3月3日なので約1週間早い出産だったが、子牛は普通よりやや大きめだった。

 見回りに行った。
 湾放牧地では、シゲヨを中心に、なんとなく群れがまとまってきた。ハナコも、まだ緊張しているが、群れの中で行動していた。
 大浦放牧地から、白64みつよを連れ帰った。
 俺は車の運転があるので、引くのはホークだ。みつよは、全体として素直に引かれてくれた。でも、途中からみつよの足が速くなり、ホークは回転させて誤魔化していた。なかなかタフな子かもしれない。

従業員さんとホークは、イタリアンの青刈りを箱に詰め、俺はディスクモアを清掃して、機械小屋にしまい、テッターレーキをファーガソンに取り付けた。ホークに言わせると、「カニみたいな機械」らしい。
 タイヤがパンクしているので、まずは取り外さなければならないのだけれど、クリップを外す専用プライヤーが見当たらず、探すのにえらい苦労した。結局、出てきたのは一時間後、さらにタイヤレバーを見つけるのに・・・無駄な時間だ。

 ほぼ1週間ぶりに船がやってきた。 食糧や荷物を心待ちにしていた島の人たちが、にぎやかに港に集まる。 楽しい風景である。
 注文していた餌の袋は今回の船には乗っていなかった。 次の船にはぜひ乗っていてほしい。 人工初乳も残り一袋になったので、明日その注文といっしょに確認してみよう。島の生活では、早め早めに手を打つことが大切なのだが、ついつい後手になり大事に至る…反省。

 午後一番に俺とホークは乗馬訓練に臨んだ。
 ソックスは、軽い脚の合図で、フライングリードチェンジが出来るのだが、指示無しに急激な方向転換や、急に旋回半径を小さくしたり、疾走中に一旦右に体重移動した次の瞬間左にに飛んだり・・・さすがに乗っていられず、ずり落ちてしまった。

 その後、俺は牧草刈りに、ホークと従業員さんは牛舎作業に。

 従業員さんがミルクロボット小屋で作業をしていると、ホークの「すみませーーーん」という声が聞こえたような気がしたそうだ。
 はて、空耳かな? ちょっと今手が離せないから、用事があったら来てくれるかな?と思いながら、作業をすませ電柱牛舎に向かうと、ホークは小屋から飛び出た富士太郎を必死で抑えているところであったそうな。
 富士太郎はホークが大好きで、親牛たちに餌をやっているホークのところに駆け寄りたくて小屋から飛び出てきたのだと思われる。
 子牛の脱走はよくあることなのだが、ホークにとっては初めてのことでたいへん驚いたそうだ。
 小屋から飛び出せるほど元気になった富士太郎…今ミルクを飲んでいる3頭の中で一番元気なのだ!

 いずみは和泉太郎に寄り添ってはいるのだが、お乳を飲ませている様子がない。 和泉太郎もうずくまったままなので、再度人工初乳を飲ませる。

 夕食は、鯵と鯖の刺身。ほたての刺身とソテー。豚汁である。 たいへん美味しかった。