初めてのハミ着け ソックス

 朝から、小雨が降っていたが、傘を差すほどでは無かった。
 K君と、馬小屋の柱立てをした。
 道具を現場にそろえ、取りかかった。
 木の電柱を、適当な長さに切り、あらかじめ掘っておいた穴に刺し、支えの木をネジ留めして、水平器でまっすぐに立たせる。
 コンクリートを練り、根元に流し込む。予想外に穴が大きくなり、大量のコンクリートが必要だった。でも、その分丈夫になるから、しっかり建つだろう。
 K君も、俺との仕事の仕方が解ってきて、かゆいところに手が届く働き様だ。テンポ良く、仕事が進む。
 一応、コンクリートの練り方や、品質の簡単な目安など、俺が知っている知識は、できるだけ覚えてもらう。俺も、師匠達からそうやって教えてもらったから・・・。
 おかしなもので、ローズはずっと側で観察していた。一見そっぽを向いているが、目はこちらをしっかり見ている。もちろん、ポパイとソックスも野次馬だから、俺たちが手抜きしないよう、見張っていた。しっかり働いたよ!

 午後から、久しぶりに馬装して、まずポパイに乗った。串木野浜競馬に出るため、体を慣らしておかなければならない。毛が抜けてボロボロだったポパイは、高価なサプリメントのために、綺麗な毛が生えそろっていた。辛い思いをさせて、ごめんね。
 ちょろっと乗ってから、K君に乗り換えた。まずは、放牧地内を俺が歩いて、ポパイに着いてこさせた。彼は、引き綱を引かなくても、俺の後ろを着いて歩くことを知っている。その間に、K君には手綱や揺れに慣れてもらった。
 一周したら、自力でポパイを操り、乗ってもらった。真っ平らでは無い、これだけ広い土地で、生まれて初めて乗馬する人に、これだけのレクチャーで乗馬させる乗馬クラブは、ほとんど無いだろう。彼は、苦労しながらも、一生懸命指示を出していた。
 やがて、早足にも挑戦してもらった。乗馬で一番難しいのは、振動が一番激しい早足だ。騎乗者は、振動でバランスを取るのに忙殺され、馬への指示がおろそかになる。当然、指示がわからず嫌になったポパイは、俺の所に帰ってくる。初めての乗馬では、仕方の無いことだよ。
 ソックスの手綱を調整していたのだが、ポパイに乗った。一応、俺が早足や駆け足をして、ポパイの心肺機能を高めつつ、その技術的な部分を、従業員さんがK君に解説する。駆け足の最初で、ちょっとだけ跳ねたポパイは、やがて安定して走り出した。一通り走って、乗り心地の良さを改めて実感した後、K君に交代した。
 久しぶりに走ったポパイは、ちょっと息が乱れていた。早足の時に指示がわからなくなったK君に対し、ちょっと不信感を持ったポパイは、出かけたくなかったよう。ちゃんと仕事しなさい!と言ったら、わかったと言って、大人しくK君の指示に従って歩き始めた。良い馬だ。
 俺は、ソックスに初めてのハミを着けるのに気を取られていたが、K君は早足で、自由に広い敷地内を走り回っていた。なかなかできることでは無い。乗っている姿は、彼のバイクに乗る姿そのものだった。筋が良い!
 ソックスにハミを着け、歩いてみた。なんて細い背中だろう。
 新馬調教では、絶対に落馬してはいけない。でも、念のために乗馬用ヘルメットをかぶった。蛇行して進むソックスを、手綱で頭の向きを変え、足でプレッシャーをかけて、行きたい方向へ進ませて、進んだらプレッシャーを緩める。ソックスは、意外に素直に、俺の拙い調教に従ってくれた。脇を走るポパイに釣られて、いきなり走り出すこともあったが、安定性の高いウエスタンの鞍のおかげで、落馬せずに乗っていることができた。でも、腹帯が緩くて、鞍に頼りすぎると・・・。
 あまり疲れさせて、練習は辛いと思わせてはいけない。早めに切り上げ、二人を抱きしめてお礼を言った。ポパイもソックスも、俺が喜んでいることを感じて、とても良い顔をしていた。エサも嬉しいが、人が喜ぶのが嬉しいのだ。良い馬でしょ?
 
 緑1たらちねに、華春福を種付けした。頚管鉗子法で種付けした後、直腸膣法でもう一度試したら、通った! 二頭目の成功だ。これからもっと経験していけば、コツもつかめるかな?