2月出荷

 俺は、知らなかったんだ。
 だから、いつもの出荷の時と同じように、行動を開始した。ただ、出かける前に、オーブンに安納芋を入れて加熱することを忘れなかった。
 雨の中、薄暗いうちから餌を与え、機械の準備をして、出発準備をする。
 昨日ほ乳ロボット調教をした潮次郎と雪絵太郎は、ロボットを覚えてくれたようで、飲む権利が無くなっていた。教える気満々で行ったので、ちょっと拍子抜けした。

 昨夜、急遽連動スタンチョン調教を始めたセナは、まだ自力では頭を突っ込めないので、ロープで引っ張って教える。ちょっと多めの餌で、覚える意欲を増してやる。適度なご褒美は、学習意欲を増すのだ。

 いろんな作業をしていると、朝7時半に揚水ポンプのスイッチを入れるのは、とても困難である。キキをトレーラーに乗せている最中だったが、従業員さんにスイッチを入れに行ってもらった。

 キキは、強引に引かれても動かない。後ろから、もう一人が尻を押してやると、ようやく動き始める。一人で引っ張っても疲れるだけなので、先にべにこから引いた。べにこは素直に引かれ、トレーラーに乗った。先にべにこが乗ってくれたので、キキもその気になってくれて、何とか一人で乗せることができた。
 カッパを着て、トラクターで港に向かった。
「寒いね。」
というのが、最近の挨拶なのだが、俺はそうですねという言葉に、魂がこもっていない。
 北海道なら、連日氷点下で、毎日凍結との戦いで、ちょっと気を緩めると水道管が凍結し、何時間も解氷に忙殺される。気持ちが負けると手足が冷たくなるから、わりといつも気を張って生きていた。部屋の中はいつも15度に設定していたから、室温が8度まで下がることもある今の部屋の方が寒いが、鹿児島は暖かい!
 雨に打たれながら、濡れた素手でハンドルを握るが、手が痛くなるほど冷えたりしない。

 そこへ、重大な情報を持って従業員さんが帰ってきた。船の出航時間が、一時間早まったと・・・。10時出航と思っていたのが、9時になると、かなり焦らなければならないのだ。他にやっておこうと思っていたことは、この際諦めなければならない。
 とりあえず、トラクターとトレーラーだけは、倉庫にしまった。

 家に帰り、荷物をまとめ、オーブンの安納芋を持って、港に出かけた。修理を依頼する油圧ホースを、宅急便で発送依頼する。こんな事は、前日にやっていたいが、船が出航する日でないと、受け付けてもらえないのだ。料金を支払って、切符を受け取ったら、もう船が来ていた。
 基本的に、島の人たちと話をする機会が少ない俺は、船に乗ったときくらい話をしようと努力する。でも、基本的には人見知りする。いい年扱いて、まだまだ子供なのだ。
 お弁当は、安納芋だ。冷めても美味しいが、人が食べているお弁当が、やけに羨ましい。

 競り場に行ったが、三島村からの牛は、とても少なかった。俺も二頭しか連れてきていないが、竹島では、子牛が生まれてこないとか・・・。種雄牛(牧牛)が死んで、人工授精への移行が上手くいってないのかな?うしを引く人の人数も少なく、出荷頭数が少ないからと言って、反則金を払って競りに来なかったら、迷惑をかけるところだった。

 湾放牧地の三頭は、脱走もせずに放牧地に留まり、スタンチョンで餌をもらっていたらしい。まずは、一歩進んだ。
 スタンチョン調教のセナは、夕方には自力で頭を突っ込めるようになっていた。

 整体に行った。
 自覚症状としては、右肩の痛みだけだったけど、全身がかなり痛んでいた。