光五郎

 揚水ポンプのスイッチを入れたら、港に紙袋の餌を取りに行く。雨に当てると、すぐに破れるし、カビが生える。扱い量が多いので、気を使うが、軽トラに積んだとたん、雨が強くなった。慌てて帰り、小さな倉庫に入れようとしたら、中はネズミに荒らされていた。濡れが激しい袋は、すぐに使う容器に入れて、比較的濡れていない物を倉庫に入れたのだが、破いてしまった袋もあった。
 電柱牛舎の子牛を、早く大牛舎に移動させたいと、要請があった。
 そのためには、赤7番たらちねと素行不良のハルカを、小屋下放牧地に出さなければならない。空いたスペースに、スタンチョン調教する必要がある出産待機牛を入れ、さらに空いた場所にセンとコトブキを移動させた。センとコトブキは、蹄が伸びていたので、削蹄しようとしたのだが、雨が激しくなったし他に急ぎの用事があったので、今日は断念した。子牛の移動は、糖蜜液を使って誘導した。
 鹿児島に帰る船には、昨日降ろすはずだった500kg袋に入ったエサが積んであった。昨日は、雨で降ろせなかったのだ。今日は、雨が止むだろうという期待だったのだが、直前までわりと強い雨だった。防水の袋だが、雨に当てると隙間から浸みた雨水で、カビが生えるのだ。
 何とか、小雨になってくれ、大急ぎで飼料タンクに入れることが出来た。
 ついでに、港に置いてあった、友人の牧草ロールを、機械小屋前まで運んだ。ホイルローダーで一個一個運ぶのは、大変だから・・・。

 湾放牧地に、中古で購入したエサ箱を持って行った。これで、12頭分のスタンチョンと飼槽がそろった。あとは、訓練と除角だけだ。はぁ、いつ終わることやら・・・。
 不良牛やスタンチョン不適合などで、増えすぎてしまった小屋下の牛を、大浦に移動させる必要があった。だが、移動させても大丈夫な牛は、一頭しかいなかった。だから、まず灯台下放牧地に移動させ、代わりに灯台下放牧地から大浦に移動させることにした。
 家畜運搬用のトレーラーを持っているのだが、多くの場合、俺は牛を手で引いていく。ちゃんと人に従う牛の方が、飼いやすいから・・・。
 俺は、馬を扱うこともあり、馬の賢さや記憶力の良さなど、とても気に入っている。牛が、人に引かれて素直に着いてくるとき、馬並に良い と表現していることがあるが、そういう理由だ。
 ところが、馬肉市場に連れてこられる、体重が一トンを超えるような巨馬には、競りに上場する時、三人がかりでも抑えきれない暴れ馬がよくいるらしい。馬なら、小さな頃に一度だけホルターブレーキングの調教をするだけで、一生扱いやすい良い馬になるのに・・・。三人がかりで引きずられる方が、調教より人でも費用もかかるのではないか?牛ですら、引かれたら歩くトレーニングをするのに。
 
 夕方、ひかりが産気づいた。
 先日、牛温恵のセンサーを、無理矢理ひりだしたひかりだったが、再度入れ直してからは、大人しくしていた。駆けつけ通報メールが来たときには、もう足が見えている状態だった。
 一旦家に帰り、頂き物のツムブリを刺身にして、夕食を済ませた。獲れたてのツムブリは、噛みしめるとパキパキと音がするほど新鮮で、まだ旨味もなかった。美味しくなるのは明日なんだけど、青年団の釣り大会だし・・・。
 牛舎に帰ったら、ちょうど生まれ落ちるところだった。北海道時代からのつきあいであるひかりは、信頼関係もしっかりしていて、子牛に触ってもびくびくしなくて良い。大豆カスを振りかけたら、昼間超早期母子分離したうしおが、熱心に舐めていた。そして、近くを通る犬たちや農業用猫を、追い払っていた。
 生まれたのは、雄だったので、光五郎(第二平茂勝)となった。