今日も、助産

 朝四時に、駆けつけ通報メールが来た。時間外は、俺の担当だ。二度寝が怖いので、起きて軽く朝食を取り、出かけた。外はまだ真っ暗だった。
 うしお(平茂勝)が、産気づいていた。まだまだ時間がかかるので、飼槽を掃除したり、餌をやったりして時間をつぶす。そのうち、足が見えてきた。大きな前足が、二本とも見えており、ついでに舌まで見えていた。引っ張り出すことも可能だが、とりあえず自然分娩に任せてみた。でも、三時間経っても、全然進行しない。あまり長いと、母子双方に負担がかかり、回復に時間がかかる。
 あまり早くから引っ張り出すと、次に難産になりやすいとか・・・。だが、時間がかかりすぎると、体力消耗して死んでしまう。どのタイミングで助産するべきかは、各ケースによってまちまちで、明快な答えはない。
 必死に息むうしおが疲れて立てなくなったのに、全然生み出せない状態だったので、引っ張り出すことにした。今日は滑車は使わず、引っ掛かり補正しながら引っ張った。引っ張りながら、やっぱり滑車が必要かなと、ちょっと後悔したりする。
 助産用滑車は、一人で八人力の力で引っ張れる。これで出せなかった助産は無い。でも、ちょっと面倒なので、必要なとき以外は使わない。
 体重をかけて引っ張り、引っ掛かりを直してやったら、徐々に体が出始めた。出てきたのは、昨日ほどではないが大きな雄だった。名前は、潮次郎(華春福)。
 大豆カスをかけてやったら、同室のひかりが丁寧に舐めていた。面白いなと思っていたら、夕方には乳を吸われても黙っていた。そのうち、母親の代わりに子牛を守って寝ていた。
 
 宝太郎とあずさを、哺乳ロボット小屋に移動させた。かわりに、哺乳ロボットを卒業した宮次郎とほまれを、電柱牛舎に移動させた。
 緑2しげふく7(金幸)に、第二平茂勝を種付けした。
出産を終えたひめことのぼるを、灯台下放牧地に出した。

 ついうっかりして、哺乳ロボットデビューした宝太郎とあずさを教育するタイミングを、計算に入れていなかった。一度飲んだら、二時間は飲む権利が得られないので、三回目の哺乳のために、日暮れまで俺が待つことになった。
 やがて日が沈み、濃紺の天頂にジュピターが、やや朱色の残る西の空にビーナスが、その美しさを競い合っていた。