生きてて良かった♡

 深夜一時過ぎに、段取り通報無しで、いきなり駆けつけ通報メールが届いた。昨日のひかりと違い、何日も入れてあったセンサーが脱落したのだから、一次破水と思って出かけたのだが、二頭入っている牛のどちらか解りかねるほど、けろっとしている。また脱落しただけか? 一瞬誤報を疑うほど、見ていても陣痛の様子も無い。ちょっと時間を置いて、また来よう! と思って、一旦帰り、コーヒーを飲む。
 こんな時、北海道で着けていたような監視カメラがあると、何度も足を運ぶ必要が無く、近所迷惑にもならない。まぁ、今回は車を少し離れた空き地に止めてあったから、近所迷惑より雨の中を歩くのが嫌だったことくらいかな。犬たちは、雨の中を何度も連れ出すのは大変なので、留守番だ。
 4時半までに、二回見に行ったが、息むそぶりも腹を蹴るそぶり未見せなかったので、後は夜が明けてから観察すれば良いと思い、仮眠を取ることにした。7時半には、揚水ポンプのスイッチを入れなければならないので、ちょっと緊張して寝る。
 スイッチを入れて、後は従業員さんが見てくれるはずだったので、安心して寝られると思ったら、間もなく電話があり、
「頭まで出てるよ〜!」
すぐに生まれるのかと思ったら、すぐに電話がまた鳴り、
「頭と片足しか出てないから、すぐに来て!」
はいはい。急いで着替え、出動だ。
 繁殖農家にとって、出産を無事にさせることは、一番重要な仕事だ。
 牛舎に着いたら、首まで出たでっかい頭と、片足が出ている。すごくやばい状況だが、まだ生きていた。見てすぐに雄と解るでかい子牛が、片腕だけで出せるだろうか? 押し戻したが、その分肩も奥に入るので、俺の手では届かないから、もう片方の足を引っ張り出せない。時間が経つと死んでしまうので、意を決して片腕で引っ張り出すことにした。出てる足に、産科テープを引っかけ、柱に縛り付けた滑車を取り付け、全身の力を込めて引く。ロープが指に食い込むが、時間をかけるわけには行かない。幸い、粘液が子牛の体を包み込んでいて、潤滑は十分だ。従業員さんが出てくる子牛のからだが引っかからないように補助してくれている間に、俺は渾身の力で引いた。徐々に体が出てきて、何とか引っ張り出せた。
 子牛は、生きていた。持ち上げようとしても、重くて持ち上がらない雄子牛だった。名前は、雪絵太郎(安平幸)問題は、肩を痛めていないかどうかだ。たっぷり敷いた敷きワラの上に寝かせ、へその緒を消毒してから、大豆フレークを振りかけて、親牛になめさせる。難産だと、親は疲労困憊して、子牛の世話をする体力が残っていなかったり、辛いことを忘れるためか?面倒を見ない牛もいる。だが、ゆきえ(平茂勝)は、よろよろと近寄り、子牛を舐め始めた。偉い!
 親牛にとっては、なめる行為は母性本能を増幅させるし、子牛にとっては大切なマッサージで、これで体の機能が目覚めるきっかけになる。

 ここで、一息着ける。俺は、人口哺乳の子牛たちに、ミルクを作ってきた。登次郎は、今日も数口しか飲めなかったので、カテーテルで流し込むことになった。飲むまで無理に流し込まないで待つという選択肢もあるが、発熱している子牛を空腹にするほど、俺は冒険家ではない。
 雨が降っていたが、昨日行方不明になっていた湾の牛を見に行った。居た居た。車を見て、嬉しそうに走ってきたが、エサを積んでいないので、声だけかけて帰ってきた。
 立ち上がった雪絵太郎に、再びへその緒の消毒をして、初乳製剤を飲ませた。今回、へその緒が短く切れてしまったので、雑菌が入りやすいために、頻繁に消毒している。

 午後から、白47まさよに種付けした。内診したら、頚管がかなり奥の方にあり、とても柔らかくなっていた。まだ、卵巣はわからない。人工授精師の講習では、模型の牛しか触っていないし、下手に触ると卵胞がはじけると思うと、よく解らない状態で大胆に触れない。経験豊富な人に着いて、ちょっと教わると良いのだろうが・・・。頚管鉗子法だと、鉗子が届かないほど、奥にあった。勝安竜を着けた。
 
 先日、瀬棚からアイスとパウンドケーキが届き、アイスはほとんど従業員さんの娘に渡った。彼女からの要請で注文したから当たり前なんだが、ハーゲンダッツが要らなくなるほど美味しいアイスを、彼女は毎日宿題を終わらせた後、頑張った自分へのご褒美として食べているそうだ。誰に言われるわけでもなく、自分で計画的に勉強を頑張れるなんて、尊敬してしまう。だから、自分へのご褒美も当然だね(^_-)-☆
 俺は、勉強すればすごい!と言われていたこともあるが、まともに勉強したことなく(努力する才能がない?)、全然すごくないのだ。だから、こつこつ努力する才能がある人を、尊敬する。
 豚バラ肉2kgを、坊津の華という釜炊きの美味しい塩で漬け込んだ。ちょっと、ベーコンを食べてもらいたい人が居て・・・。