1月競り

 競り当日だ。6時半にホテルを徒歩で出発し、マイクロバスが出る役場を目指す。空はまだ黒ずんでおり、車はライトをつけて走っている。
 俺は三島村なのだけど、手前の十島村役場前に止まっているバスに乗り込んだ。三島村役場前から乗り込んでこられた先輩に、朝食代わりによもぎ餅をもらってしまった。
 今日の競りには、超強力な助っ人を頼んであった。
 牛を競るのは、肥育農家や仲買の男性だ。飼い主が牛を引っ張って会場入りするのだが、大きな男が引っ張っているより、小柄な女性が引いている方が、高値がつくことが多い(ような気がする)。女性が引いた方が、子牛が大きく見えるし、ちょっと嬉しい気持ちにさせるのだろうか?
 今日の協力者は、マリリンだ。南さつま市から、保護者同伴でやって来た。
 子牛のブラッシングから、手伝ってもらった。俺が、金ぐしで汚れを落とした後、豚毛のブラシで磨いてもらった。馬を扱う彼女は、とても丁寧にしててくれた。
 牛を引いて、会場入りするやり方を、丁寧に教えた。さらに、実際の競りを見てもらい、牛の見せ方を勉強してもらった。
 最初の牛は、小さなつなみだった。250kgに満たなかった彼女は、20万円台の前半でもおかしくなかった。だが、電光掲示板の数字は、予想外に伸び、29万円まで達した。これは凄い! 次の美津太郎は、290kgだったが、45万円行ったら嬉しいと思っていた。ところが、48万円まで駆け上った。
 こっこれは、マリリン効果以外、考えられない!
 牛飼いの先輩方は、俺が鼻の下を伸ばして話している姿を見て、彼女かい? 奥さんでしょ? 早く手を出しなさい! と、暖かく応援してくれたので、はい、頑張ります!と答えておいた。
 午後から、三頭の競りがあった。
 競りは、公正な競争であり、売り手が可愛い女性だからと言って、経営を度外視して買ってくれるほど甘くない。だが、競りは勢いもあるので、欲しいと思ってくれるような牛なら、ボタンを押す力(勢い)は、ちょっとした心理状況で微妙に変わり、それが価格の差になって表れることもある。でも、いつも上手くいくとは限らない。
 でも、当初の目標売り上げより、19万円も高かったのは、単に相場が上がっただけとは考えにくく、マリリン効果と思っている方が、みんなが幸せを感じることが出来て、きっと良い!
 
 競りが終わり、マリリンの車に三人で乗り込み、笠沙を目指した。車には、競り場の売店で買った、黒毛和牛のモモやバラ、ロースの薄切り肉が解凍中であった。途中の店で、すきしゃぶの材料(すき焼きと同じ)を買い込む。
 ブルウノに着く。ウノさんは、緑に埋もれていたブルウノを、こざっぱりと整備していた。
 早速、四人ですきしゃぶをつつく。和牛の美味しさを世に広めるため、レシピや食べ方は、厳しく指導させていただいた(^^ゞ
 和牛の脂身を、香りが出るまで念入りに炒めてから、野菜と豆腐、しらたき、みりん、しょう油を入れ、煮込む。みりんの代わりに日本酒を使う場合は、砂糖を入れる。つゆだく気味にした方が良い。
 煮立ったら、具材を寄せてできた隙間に、肉を広げて各自一枚ずつ入れ、色が変わったらすぐにいただく。ピンクぐらいで食べた方が、肉のうまみや甘味が両方楽しめて、和牛本来の美味しさを損なわず、美味である。食べる速度に合わせて、のんびり楽しみながら、味わっていただく。
 美味しいから、あなたも是非!!!

 食後、何十年ぶりに、トランプという物をした。七並べや21だが、俺は強いらしい。楽しく、夜は更けていくのであった。