効かない麻酔

 小屋下放牧地の牛たちに、餌や牧草をやるのが、とても楽しくて良い!今までは、強い牛がエサを独占し、気の弱い牛は近寄ることさえ出来なかったし、牛に用事があっても、捕まえるのは大変で、ストレスだった。今は、毎日頭を撫でてやることが出来るし、種付けも投薬も、楽々だ。環境を改善して、毎日の仕事は、出来るだけ楽しくやりたい。
 今日こそは、麻酔薬を試し、1頭でも角を切ってしまいたかった。最初の1頭に選んだのは、スタンチョン部屋にいてすぐに捕まるし、まだ種付けをしていないオリヒメだ。推定体重400kg。獣医師の指示では、麻酔薬は1.2〜2.0mlということだったので、1.8mlを静脈注射した。麻酔薬は、静脈血に乗ってあっという間に全身に回り、やがて座り込んだ。
 だが、そこからにはなるのだが、昏睡しない。誰か抑える人がいれば、角を切っても人を怖がらないという目的を果たすことが出来るのだが、一人で角を切るには意識がまだ残りすぎである。時間が経てば、もっと薬が効くのかと思ったが、だんだん意識が戻ってくる。仕方なく、力でズパッと行かせてもらったが、力業は俺の趣味では無い。
 止血しようと焼きごてを使うのだが、吹き出す血が多い上に、火力が弱く、しかも麻酔が効いていないから暴れて、結局止められなかった。仕事が不完全だと、イライラして疲れるのだ。結局、麻酔醒ましの薬は必要無かった。
 これでは、仕事にならんな。次は、2.5ml注射してみた。すると、一分もしないうちに倒れ込んだが、やはり昏睡はしなかった。焼きごてを使ったら、立ち上がって逃げた。枠場は、立たせて保定する場所だから、今度スタンチョン牛舎のような、寝ても保定出来るような場所を作ろう。
 だが、今度は角の根元をきつく縛ったため、止血されてあまり血は出なかった。
 そういえば、湾放牧地の牛が、となりの放牧地に行っていた。境界の柵が壊れているのかと思って見に行ったら、出入りする場所の棒が、落ちていた。原因がわかって良かった。