悲しい注射

 一人で仕事をすると、ルーティンワーク以外の仕事に手を出すのが困難になる。
 今朝、黄色29けいこが、初めて自分からスタンチョンに入った。覚えの悪かったひなたと雄斗姫太郎は、ようやくミルクロボットを覚えた。
 メロンに種付けをしようと準備していたら、ユンボがやってきた。
 オレンジ22番は、一年前に、武蔵と小次郎の双子を出産し、たぶんその負担で腰骨がずれて、ちゃんと歩けなくなった。これまで、何度も出荷しようとしたけど、その度に竹藪に隠れて捕まらず、出荷を免れてきた。その後、歩行困難が悪化し、牛舎に回収したのだが、歩けない牛は、成牛市に出荷できないのだ。
 安楽死をさせるように言われていたが、埋設する穴も簡単には掘れないし、薬剤も無い。洗剤で良いんだと聞いても、かなり抵抗があった。○○のように、眠りに落ちるように静かに死なせる薬があるのだから、苦しみを伴うような死なせ方はしたくない。そう思って、その薬を手配してもらおうとしていた。
 でも、殺すための薬を買うのは、獣医さんだってしたくないようだ。苦しみを感じないように麻酔薬を渡され、静脈に注射して眠っている間に、洗剤を注入するように言われていた。それでもグズグズしていたのは、俺の甘さだ。
 だが、その日はとうとうやってきた。首の静脈に、麻酔を注射したが、簡単には昏睡状態にならなかった。やむを得ず、体重をかけて押さえ込み・・・。
 亡骸を埋葬したあと、監督とユンボを借りる話をした。馬小屋予定地を整地したいと言ったら、今この場でやってくださることになった。現場に俺が立ち会わないわけにはいかない。メロンは、枠場に繋いだまま種付けを待っているが、今日は待ってもらうしか無いだろう。盛り土を広げ、平らにして押し固めてもらった。それでも、柱を立てるには、基礎をどう固めるかが、課題になるかも知れない・

 体調が悪く、注射してもなかなか回復しない頼茂士太郎に、牛衣を着せてやった。一枚来ているだけで、体の負担はかなり減るはずだ。