ローズ、新たなる一歩!

 俺が競りに行っている間に、二頭の子牛が生まれていた。いずれも、親牛の見守る子牛に近づき、へその緒を消毒して、初乳製剤のカプセルを飲ませてあった。一年前なら、母牛との信頼関係が出来ていないから、襲われてしまうところだが、大丈夫だったらしい。
 これだって、77頭の牛全部の名前を覚えて、一頭一頭名前で呼びかけ、可愛がってきた従業員さんの努力の成果だ。懐いている牛は、扱いやすく成績も良いことが多い。
 今日は、見回りの時、出産45日程度前の母牛に、ワクチンを接種した。
 出産が終わり、超早期母子分離したまさよとたのもしを、灯台下放牧地にだした。代わりに、青16ふくしげを捕獲して、ワクチンを接種し、小屋に入れて慣らすことにした。この牛は、連動スタンチョンにも入らず、捕まえても抵抗が強く、引っ張るのも大変だ。さて、これをどうやって慣らすかな?
 緑10たからを、湾放牧地から連れ帰った。湾放牧地には、隣のゆりが来ていて、うちの牛に混じって嬉しそうに餌を食べていた。放置すると、柵を壊して授乳に戻り、そのときうちの牛を連れて行ってしまう。簡単には捕まらないこの牛を、二本のロープを繋いで長くした捕獲ロープで、何とか捕まえた。
 緑2番しげふく7が発情していた。灯台下放牧地は、比較的集まりやすいので、一旦放したのだが、夕方種付けしようと呼び集めたら、白5かねふくと緑2しげふく7が、帰ってこなかった。かねふくが発情したため、二人の世界に入ってしまって、無粋な人間に邪魔されたくなかったようだ。でも、デリカシーの無い俺は、逃げ回る二人を猟犬のように先回り先回りして追いかけ、何とかスタンチョンのある枠場に追い込んだ。牛飼いは、犬にもなるのだ。
 北海道から引っ越しして、約一年半が経った。
 ローズは、堆肥小屋と竹藪を住みかにして、けっこう満足しているようだった。ポパイ達の放牧地に出られるように、バラ線を高くして通れるようにしてあったのだけど、今日初めてローズが新しい世界に飛び出した。その姿は、何とも言えずユーモラスで、人気者になること間違い無しだ。