人懐っこい子牛

 未明から雨だった。雨が早くなったのだ。南国の雨は、わりといつも本降りだ。ちょっと傘を差さずに牛舎間を移動すると、びしょ濡れになる。
 黄色38番ヤスヒラシゲの息子は、俺の流儀で行くと安平茂次郎とかになるはずなのだが、宮次郎になっている。38だからね・・・。現在、一頭だけほ乳瓶で飲んでいるが、沢山撫でられて、気持ちよさも解ってきたかな?
 宮次郎がいる部屋は、敷料としておがくずを敷いてある。農業用猫のソラは、雨の日のトイレとして、このおがくずを利用している。猫糞なんて、たいした量では無いけど、あまり嬉しくないなぁ。利用料のつもりなのか、子ネズミを供えてあった。彼には、全く悪気が無く、世界は自分の為にあり、犬の前でも堂々としている。
 どうやったのか解らないが、茂四郎が柵をいくつも隔てた空き部屋に入っていた。そして、当然という顔をしてエサをねだったので、彼の割り当て分を与えた。しばらく彼のことを忘れて作業していたら、食べ終えた茂四郎は雨の中、敷地を散歩し始めた。捕まえるためにロープを持って一応名前を呼んでみた。すると、ピョコタンピョコタンと跳ねながら、俺の方に走ってきた。そこで、本来いるはずの部屋を空けて、中からおいでと呼んでみたら、なんのためらいも無く入ってきた。彼は、犬では無く子牛だ。人懐っこい牛を育てるのは、俺の牛飼い目標の一つだけど、こんなに人懐っこいと笑ってしまう。
 哺乳ロボット小屋の子牛数頭に、注射をした。以前なら、ロープをかけて捕まえ、暴れる子牛を押さえつけて注射していたが、怖がられてしまうのだ。でも、押さえないと注射できないし・・・。最近は、糖蜜を入れたほ乳瓶に吸い付かせ、後ろからこっそり押さえ込んで注射をしているが、子牛の恐がり方がかなり軽減された。
 懐いている子牛は、体調が悪いことをすぐに教えてくれるし、餌もよく食べるので大きく育ちやすい。遊び心だけで、可愛がっているわけでは無いのだ。
 出荷する子牛を、2頭磨いた。