牛飼いをしていて、いつも欲しいと思っているのは、人手だ。特に、有能な人材は、願っても手に入るモノではない。
 今日は船が入港する日で、試験圃場を見に来る農業試験場の人と、農業研修を受けたいという人が、乗っていた。午後からその対応があるので、朝のうちに種蒔き作業を出来るだけ進めておいた。
 うちで研修を受けて、そのまま村の畜産業者として定住したいという希望を持っている研修希望者なのだが、行政の支援がなければ、俺には受け入れるだけの経済的体力がまだ無い。俺が就農したころは、二年間の研修を受けたら、研修期間の生活費として、月に10万円以上の補助が出ていたから、研修者は研修したい農場に経済的負担をかけずに、研修を受けることが出来た。今は、無いのかな?
 いずれにしても、まだ会ったことがなかったので、不安がいっぱいあった。どんな人だろう?俺は、受け入れたとの責任を果たせるだろうか?
 降りてきた人は、見た目は普通(?)の人だった。とにかく、しばらく作業したり放してみなければ、どんな人物か解らない。
 昨日来てくれたカップルと同伴の男性の三人が、牛舎の大型扇風機三台を、天井から吊す作業に来てくれた!ホイルローダーを足場にして、天井から扇風機を鎖で吊す作業の開始だ。誰もが初めての作業で、手探りでやるしかない。吊り下げた状態で、角度を付けて、動力がかかっても揺れにくくするために、いろいろ工夫してもらった。
 カップルの女の子に、
「農業って、やり方とか解ってくると、すごく楽しいですよね?」
と、輝く笑顔で言われて、嬉しかった。吊り下げるのが、俺一人では大変と思っていた。下げてもらったから、あとは配線するだけだ。

 研修候補生は、夜はご飯を食べる習慣がなく、もっぱら麦の流動食だけのようだ。ガッツリ食わないと生きていけない俺とは、燃費が違うらしい。