解剖実習

 最近、ハイラックスサーフのバッテリーが弱っているのを感じていた。エアコンを着けずに走っているし、ライトが必要な夜間走行もほとんど無いのに、セルの回り方が弱くなったように感じていた。結構な距離を走っているのに、全然充電している様子が無かった。
 そして今朝、宿を出てコンビニで朝食を食べていたら、再始動できなくなってしまった。辺りを見回し、ガソリンスタンドまで走って呼びに行き、ブースターケーブルをもって引き返し、エンジンを始動してもらった。
 考えた。急いで出かけないと、遅刻してしまう(たぶんもう遅刻してる)。でも畜産試験場に行ってしまっても、帰りにエンジンはかからない。そこで、畜産試験場の近くのガソリンスタンドに入り、充電してもらいながら、代車を借りて講義室を目指した。
 教室には、10分ほど遅れた。謝罪して理由を言ったら、理由にならないとか・・・。
 ちょうど、生殖器の解剖が始まるところだった。屠畜された肥育牛から取った、雌の生殖器だった。俺たちが授精師の免許を取ったら、熟知していなければならない所だ。
 遅刻の汚点は、頑張って取り戻すしか無い。積極的に動き、解剖も率先してやった。
 子宮周辺には、大量の脂肪が着いており、それを手早く取り去ることから始めた。取り去っていて気がついた。
「あれ?膀胱はどこだ?」
切り捨てたのかと思ったが、それほど大きな器官を、気がつかずに切ってしまうなんて、考えられないと思い、切り捨てた脂肪の袋を探してもらったが、膀胱は出てこなかった。最初から、着いてこなかったようだった。6体ある標本の中で、卵巣が無いものが3体あった。そういうこともあるらしい。
 卵管峡部や卵管漏斗部付近は、わかりやすく綺麗に切り広げるのが、難しかった。
 午後からテストがあったが、先生は4時まで時間を引き延ばさなければならないと思っておられ、昼の授業には1時間遅れてこられた挙げ句、『一時間ほどテスト勉強してくれ』と言われたので、一応委員長として、我々が頂いている予定表では、今日は午後二時で終わることになっており、皆、そのつもりで動いている。特別な理由で授業が延びるのは仕方が無いが、やることも無いのに無為に時間を引き延ばされるのは、ありがたくないことを進言した。
 先生は解ってくださり、すぐにテストになった。簡単なテストで、勉強するまでも無く、あっという間に終わってしまった。生意気言って、すいませんでした。

 急いで、2時までの約束で代車を貸してくれたガソリンスタンドに行った。
 ハイラックスのバッテリーターミナルが交換されており、充電も完了していた。代車を貸していただいたおかげで、首にならなかったことをお礼言って、代金を払って帰った。4時まで引き延ばされたら、店員さんの車だったので、とても迷惑をかけるところだった。