出来るだけは頑張った

 未明から行動を開始した。照明設備のない牛舎では、できることは限られている。
 放牧不適の赤7番たらちねの部屋に、放牧不適のはるかを入れた。後継牛のことぶきを、後継牛の部屋に移動させた。生まれて間もないゆかりを、人工ほ乳の部屋に移した。黒島崎に行って、緑33番を捕まえ、牛舎に引いて帰った。
 ほ乳ロボット小屋で咳をしている子牛がいた。腹がへこんでいるし、耳が熱い。歩かせると、フラフラしている。大急ぎで、治療を開始した。群れ飼いしている場合、一頭が病気をしていると、他の子も病気していることが多い。一頭一頭調べて、症状がある子牛は治療した。
 俺が留守をしている間に、子牛の病気に気がつかないからと言って、従業員さんを責めたりしてはいけない。一人で守るには、牧場の仕事は多すぎるし、心にゆとりが無いと、子牛の微妙なサインを見落としても仕方が無いのだ。

 うちの従業員さんは、とても丈夫そうに見える。
 でも、俺は一ヶ月以上留守にすることに、とても不安があった。だから、いろいろなところにお願いしたり、人を雇うことも含めて探してもらっていた。でも、従業員さんは人にものを頼んだり泣き言を言うのがとても苦手だ。さらに実際農場は運営されており、大過なく過ごせているようだったから、あまり手伝いの人は現れなかった。やったことのない牧場の手伝いは、一般の方にはハードルが高すぎるのだ。

 でも、先週の船が欠航したことで、俺に頼もうと思っていた作業が出来なくなり、一人で働き続けていた従業員さんは心が折れ、体を壊してしまった。3日間も食事が取れなくなり、点滴を受けるほどになっていて、心配してくださった島の方々が、びっくりして手伝いに来てくださった。手伝ってくれた人は、牧場の仕事の多さに驚かれたことと思う。
 来月頭まで、俺は帰れません。引き続き人を探し続けますが、皆さんよろしくお願いします。

 ファーガソンの冷却系を直そうと思ったが、とても手が回らない。来週、飛行機で帰ったとしても、山積している仕事を片付けるので精一杯だろう。鹿児島に運んで、プロの手で修理してもらうことにした。着けっぱなしだったディスクモアを外し、港に走った。運転中は何ともなかったが、家で荷造りをしていたら、パンクしているぞと、電話が入った。
 慌てて駆けつけたら、いつもの右前タイヤが凹んでいる。出かけるとき、しっかり膨れていることを確認していたのに・・・。船がやってきた。このままでは積めない。牧場に飛んで帰り、コンプレッサーを持って引き返した。でも、バルブが引っ込んで、空気を入れるのも苦労した。手伝っていただきながら、何とか積み込むことが出来たが、迷惑をおかけした方々、どうもすいませんでした。
 船の上では、寝るしかすることがない。だから、よく寝た。
 入港40分ほど前から、係の人とパンクしたファーガソンのおろし方について相談した。機械屋さんのアドバイスを取り入れながら、実車で何が出来るか探った。フォークリフトで前を持ち上げソロリソロリと下ろすことになった。車重が重いので、パンクした状態で前進すると、5mも進まないうちにタイヤがもげ、ホイルを壊してしまうだろう。
 入港し、試してみた。だが、平たいフォークリフトの爪は、滑ってしまいファーガソンのフロントは簡単に床に落ちてしまう。あきらめムードも漂ったが、あきらめたら下ろせないのだ。何度も何度もチャレンジして、無事下ろすことが出来た。皆さん、ありがとうございます。

 鹿児島市内は、灰だらけだった。激しい降灰で、黒い服や髪の毛は白くなり、車の上にはたっぷりと灰が積もった。女性は、傘を差さないと、おしゃれしても灰だらけになってしまうし、顔をタオルで押さえて歩いている人も・・・。

 子牛たちに、別れを言いに行った。うちの牛たちは、俺の顔を見て駆け寄ってきて、ベロベロ舐める。明日は、頑張れよ!