牧場見学

 みんな、家に帰ったら勉強しているらしい。実習になったら、テストが無くなるから、ぼちぼちやれば良いと思っていたのだが、実習が出来ない分、毎回テストがあり、ちょっと焦っている。
 今日は、人工授精の実習振り替え授業だった。人工授精のときに使う器具について、どのように消毒するか習った。
 本来なら、膣鏡やカンシなどは、オートクレーブや乾熱滅菌の機械で、滅菌処理をするべきなのだが、それは個人で買える物ではない。でも、それくらい消毒に留意するべきものだということだ。煮沸滅菌法を勧められた。洗ってアルコール綿で拭いただけでは、不十分らしい。今度、逆性石鹸を買っておこう!
 受精証明書などの書類を書くテストは、たぶんちゃんとできたと思う。

 授業が終わったら、念願の牧場見学だった。級友の車に着いて牧場に向かった。
 大隈半島内陸部の風景は、とてもゆったりとしており、畑作と畜産が盛んに営まれている様子が窺えた。北海道と違って、一つ一つの区画はとても小さいのだが、飼料作物も沢山植えられていた。
 降り出した雨の中、芋掘り機が動いていた。どの農作業だって、大変なところはあるのだが、あちらこちらの畑に、いろいろな作物を輪作し、牛も飼っている方の働きぶりを見ると、俺には真似できないと脱帽してしまう。
 目的の牧場は、母牛250頭を牛舎で飼う、大規模牧場だ。社員2名のうち1人が体調を崩したとかで、社長がもう1人の社員と2人で、この規模を世話しているそうだ。
 ちょうど種付けをするところで、50頭の母牛が入った部屋のスタンチョンにつながれた母牛の所に行った。上から、大型扇風機で風を当てているため、これだけの密度で飼っていても、戻し堆肥の床はふかふかに乾いていた。スタンチョンがあるから、これだけの数でも、餌が行き渡るようだ。
 種付けした牛を、直検させてもらった。生殖器解剖学の講義を受けたため、頚管も二股に分かれた子宮も、とてもよくわかった。ただ、卵巣や卵砲を探ると、受胎率が落ちる可能性があったので、遠慮させていただいた。帰ったら、自分の牛で試そう。
 群れ飼いに適さない牛は、つなぎで飼ってあった。俺が、つなぎ牛舎を建てたい理由もそうなのだが、そういう牛を無駄にしないことも、とても経営上とても大事なことだ。
 種付け期、安定期、妊娠末期など、各ステージで牛群が分けてあり、一元管理しやすくなっていた。
 哺乳ロボットの部屋も、綺麗な敷き料が敷いてあった。初めの一ヶ月は、哺乳瓶で飲ませているのは驚いたし、そのハッチが金網の床になっていて、糞尿が下に落ちて牛体が汚れないようになっていた。暖かい鹿児島だから使える方法だ。
 牛は全体的に痩せており、広い放牧地で餌を飽食しているうちの牛とは、えらい違いだった。

 一旦、今夜の宿にチェックインした。なんと、料金はすでに支払われていた。シャワーを浴びたあと、級友が迎えに来てくれて、料亭に行った。三人で乾杯し、美味しい食べ物を頂きながら、歓談した。どれも、一工夫されていて、とても美味しかった。
 社長は、経営的には安定しているのに、遊ぶ暇が無いと言っておられた。たぶん、牧場経営にかける情熱の違いなのだろう。人付き合いや、各組織の役員などに砕身しておられ、人付き合いが苦手なのを理由に、引っ込んでいる俺とはまるで違っていた。
 もっと、経営改善をしたいと思った。そして、良い牛を作ろう!