メロン重症

 朝からそうめんを食べて、牛舎に出かけた。やるべきことがあるので、てきぱきと仕事をこなす。早めに見回りに行き、ダニ駆除薬のバイチコールを塗って回る。
 お産間近のメロンを、牛舎に連れ帰るつもりで、柵から引っ張り出した。
 メロンは、普段とても従順で、巨牛なのに扱いやすい。だけど、大きな体は伊達では無い。ひとたび興奮すると、手が着けられない。瀬棚時代、誰も破ったことの無い産室の壁を、いとも簡単に蹴り壊した事もある。
 今日は、何が原因だったのかはわからない。突然俺を引きずり回したと思ったら、忽然と姿を消してしまった。飛行場脇に、沈殿槽があり、これが牛一頭が縦にはまり込むほどの深さで、そこに落ちてしまったのだ。体重600kg近いメロンを、人力で助けられるわけが無い。ファーガソンを取りに帰り、引っ張り上げようとした。でも、メロンは重く、もくしは老朽化していた。吊り上げるロープが切れたり・・・、もくしが切れたり・・・。トラックを引っ張る太いロープに取り替え、一気に吊り上げた。ファーガソンの後輪が空転する。
 救出したメロンは、立ち上がれなくなっていた。けがの状況を調べると、全身にひどい擦過傷があり、臀部上部の尻尾付け根あたりに、幅4〜5cm長さ15cm深さ2cmほどの皮膚の裂け目があり、広範囲で真皮や皮下組織ごと筋肉から剥がれていた。
「縫うしか無いな。」
直感的にそう思い、鹿児島の獣医さんに電話した。
 相談した結果、俺が傷口を消毒して仮縫いをすることになった。歩けないメロンを、トラクターでつり下げていくわけにも行かない。急いで道具を取りに帰る。傷口を洗い、抗生剤を振りかけた。傷口を縫った後、抗生剤を筋肉注射した。注射しようとしている俺に、メロンは体をひねって、猛烈な頭突きを食らわせて、ひっくり返らせた。虐めてるんじゃないんだよ!君を救いたいんだよ。
 一旦帰って牛舎作業の続きをやり、帰り際に立ち上がっていたメロンを、トレーラーに乗せて、牛舎に連れ帰った。

 こんな事をしている間に、船は出てしまった。
 砂糖さん夫妻が、帰り際に訪ねてくれることになっていたが、放牧地にいたからきっと無駄足だったし、見送りに行くことも出来なかった。どうもすいませんでした。

 午後からは、俺はひたすら乾草庫整理をした。天気予報が変わって、最後の一番草を刈り取るタイミングを逸してしまった。だから、今丸めた乾草を、何が何でも倉庫にしまわなければならないし、去年の牧草も、無駄にしないで利用できるしまい方をしなければならない。入れる場所が・・・。