脱柵

 朝から、種付けとか牛の移動とか・・・。
 次期母牛候補の五頭の育成牛は、これまで大切に牛舎で育ててきた。だが、いずれは放牧に出さなければならない。どうせ出すなら、牧草が豊富な今出すのが良い。とりあえず、三頭湾放牧地に連れて行った。ところが、出迎えてくれるはずのクミコとタカラが居ない。広大な放牧地は、背丈近い笹が生えていて、牛が紛れ込んだら、見つけるのは困難だ。名前を呼びながら歩いたが、出てきてはくれなかった。
 新人三頭は、牛舎の部屋とは比べものにならない広い場所に興奮し、跳ね回ってバラ線の柵に引っかかっていた。
 おそらく、クミコとタカラも、同じようにはしゃぎ回ったあげく、柵の向こうに大人の牛を見つけて、乗り越えていってしまったのだろう。モトツボクミコとタカラは、隣の牛群に紛れ込んでいた。
 クミコは、素手で簡単に捕まるから、連れ戻して柵を修理したのだが、タカラは捕まらなかった。
 午後から、シゲヨを連れて行った。

 今日は、発情日和でもあった。
 昨日の夕方から発情していた、カズエと緑23番は、朝のうちに種付けした。その周りにも、発情している牛が沢山居て、判別が難しいのだ。産後間もない牛は除外して、注意深く観察し、種付けをする牛を決めた。赤15トマト、黄色77、黄色81の三頭だ。赤20は、産後10日目なのでパス。
 老牛が、引いたら素直に動くというのは、必ずしも正解では無い。力任せに引っ張っても動かない牛は、後ろに回って追ってみる。それでも動かない牛は、また前に出て引っ張る。
 とりあえず、一ヶ月くらい仕事を休んだら、腕の痛みが消えるだろうと言われている。力を出しすぎて、筋繊維が痛んでいる時、治らないうちに次の負荷をかけてしまうために、痛みが慢性化してしまったのだ。普通なら、筋肉に負荷をかけたら、強くなりそうなものだが、回復の時間を与えないと、ずうっと痛みっぱなしになる。傷口を、毎日がりがりひっかき続けている状態らしい。休ませるって言ったってねぇ・・・。
 プロテインのシェイクを飲んだり、アミノ酸を飲んだら違うらしいが・・・。
 痛くても、一生懸命働かないと、仕事にならないのだ。従業員さんは、俺が歳をとったと言って喜んでいるが、10年くらい前に大ハンマーを振るいすぎて五十肩になった時のように、いつかは治ると信じているのだ。