台風の中の出産

 昨夜、9時半に(しおり)の呼び出しメールが入った。大雨の中、駆けつけてみたら、牛舎の柵に器具をひっかけて、抜け落ちただけだった。このようなエラーをなくすためには、器具の取り付けを熟練すべきということかな?
 未明に、今度は(おしげ)の呼び出しメールが入ったようだが、俺が目を覚ましたのは、一時間後だった。大嵐の中、作業着を着て出かけた。
 すると、牧場の高台に向かう道が、崖崩れしていて、車は通れなくなっていた。邪魔にならないところまで車を戻し、歩いて牛舎に向かう。
 一時破水してから一時間半は経っているはずなのだが、お産は全然進んでいなかった。一刻の猶予もなく、急いで捕まえ、枠場に連れて行く。枠場そのものは屋根の下にあるが、牛の尻の部分は屋根からの雨水が流れ落ちる場所にあり、作業しづらかった。陰部に手を入れたら、子牛はまだ生きていたが、足がとても大きかった。
 これは出ない!
 すぐに滑車を用意し、産科ベルトを前足にひっかけ、八人力の産科滑車で引っ張る。この滑車の力をもってしても、渾身の力を必要とするほど、子牛はデカかった。
 産科の滑車は、機械と違って引っ張る力や距離を、自由に調整しやすいのが特長だ。頭の引っ掛かりを修正して、体重をかけて一気に引っ張り出した。
 絶対雄だと思ったのに、大きな雌だった。猫車に子牛を乗せて、部屋に戻し、母牛も連れ帰る。大きな子牛は、出産時に体力を使い果たしているので、立ち上るのに時間がかかった。

 大屋根の熱気抜き穴から、大量の雨が吹き込んでいた。防風ネットでくるんでから、こんなに入ったのは初めてだ。まぁ、仕方ないかな?哺乳ロボット小屋にもパドック小屋にも、大量の雨が振り込み、床はびしょびしょだった。子牛たちは、寝ることが出来ず、壁に寄り添って立っていた。
 電柱牛舎は、防風ネットカーテンのおかげで、寝床だけはかろうじて守られていた。
 こういう記録(記憶)は、次の台風の為に生かしたい。

 雨が小降りになったところで、ホイルローダーで崩れた土砂を押して、車が通れるようにした。二次災害が怖いので、最低限度の仕事しかしなかったけど・・・。

 午後には、雨が止んだので、災害復旧の為に出かけた。防風ネットカーテンを巻き上げ、哺乳ロボット小屋の床をはがして、昨日作った雑草ロールを敷いた。子牛の嬉しそうなこと!