黒毛和牛は、美味しいんです!

 先日預かった娘さんは、お肉より魚が好きで、霜降りの和牛は苦手と聞いていた。
 鉄火丼を食べる彼女の前で、俺は黒毛和牛のロースを、直火焼きコンロで焼いて食べていた。注文があるたびに、一枚ずつ強火で一気に焼き上げ(表面カリッと中ジューシィー)、お皿に乗せてやった。
「ぱくっ・・・美味しい!」
 いつもは、カルビではなくモモを食べているらしい。霜降りのロースは、彼女には脂っこいといわれるかもしれないと思ったが、ちゃんと焼いてやったら、美味しい・・・嬉しかった。
 俺の冷凍庫には、いつも黒毛和牛の肉はストックしてあって、和牛のおいしさを宣伝できるチャンスは、逃さないようにしている。焼き肉を美味しいと感じてくれたお嬢さんに、すきしゃぶでも霜降りが美味しいと感じてほしかった。
 すきしゃぶとは、先に肉を炒めるのではなく、脂身と野菜を炒めてから、割り下を入れ、つゆだくで肉は最後に入れて、色が変わったらすぐにいただく。当然、食べる速度に合わせて少しずつしか肉を入れない。煮えすぎたら、美味しくなくなるのだ。
 肩ロースのA5等級かな?俺の宣伝活動を支援してくれているお肉屋さんは、時々とんでもない上等な肉を、さりげなく混ぜてくれる。
 ほんのりピンクが残る霜降り肉を取り皿に入れてやる。すると、
「美味しい!すごく柔らかい。」
それが、霜降りの和牛です。加熱しすぎると、脂の甘みも肉汁の旨味も逃げた、残骸を食べることになる。
「これなら、食べられるよ!これが良い!」
お母さんに、買ってもらってね。

 大昔、魚を食べられない当時の彼女に、天然もののカンパチを食べさせた時のことを思い出す。
「これ美味しい!これなら食べられる!」
以来、天然もののカンパチが標準になり、それと同等以上の魚でないと、認めてもらえなくなったっけ・・・。
 俺は、もしかしてすごく悪いことをしたのかな?