牛温恵の成果

 駆けつけ通報メールで、目覚めた。まだ5時半だ。
 北海道にいた頃は、お産が近いと、枕元に置いた監視カメラで、毎晩二時間置きにチェックしていたので、寝不足になっていた。80頭規模だと、いつも夫さんを待っている牛が待機している状態であり、お産に立ち会おうと思うと、毎日寝不足になってしまう。
 牛温恵は、お産事故を無くしつつ、安眠できるシステムだ。通報があって行ってみたら、確かに今日生まれそうな雰囲気ではあったが、まだ破水していなかった。
 電話があって、誤報だと判った。牛が寝ているとき、陰部が開いてセンサーが空気に触れたらしい。脱落防止の器具をつければ、このような誤報も無くなるらしい。何事も、経験である。

 日常の作業をしながら、観察する。温度兆候から、お産直前であることに間違いは無いのだが、段取り通報メールが来てから、28時間以上かかるような場合、双子か以上産の可能性が高いそうだ。
 夜9時を過ぎても、呼び出しメールが来なかったので、監視システム会社の社長さんの助言にしたがい、内診することにした。灯りが無いので、車のヘッドライトで枠場を照らす。
 センサーを抜き取り、内診してみたら、前足と頭が確認できた。内診が刺激になり、すぐに一時破水した。
 時間がかかるので、一旦牛舎の部屋に戻そうとしたら、歩いている途中で二次破水した。また、枠場に逆戻り。産科テープを足にかけようとしたら、前足が一本しかない。あれ?頭はある。片方の足が、曲がって奥に引っ込んでしまったのだ。
 体を一旦押し戻し、隠れた前足を引き出した。産科テープを両前足にテープをかけ、全体重をかけて引っ張った。だが、びくともしませんぜ!急いで、産科用滑車を設置・・・二時破水後は時間との勝負なのだが、滑車の設置は初めての場所では戸惑うので焦れったい。だが、ちゃんと設置できたら、滑車を使うとスルスルと引き出すことが出来る。
 生まれたのは、元気な雄だった。静四郎だな。暗闇の中を、走り回っていて、なかなか初乳を飲まなかった。