3月市場

 競り当日である。朝7時に役場前出発なので、早めにホテルを出て、歩き始めた。
 今日は、2頭しか売らないので、時間にも気持ちにもゆとりがある。牛引きも、午前一頭、午後一頭だ。
 みんなの牛を繋いだ後、各自、自分の牛をブラッシングする。頭数が少ないと、丁寧にブラッシングできた。あやめ(鉄平)は、俺が近づくと、鼻を俺の体にくっつけ、ぺろぺろなめた。いつもと違う雰囲気に、不安だったようだ。服が濡れるんだけど・・・。
 相場は回復しており、大きくない俺の牛も、良い値段で落札された。
 今日の競りは、自分の子牛を売るだけでなく、後継牛を購入する計画があった。狙うは、すでに死んでしまった忠茂勝のように、自分では生産できなくて、人気のある種雄牛の娘だ。二頭ほど目星をつけて、高くても競り落として欲しいとお願いしたら、県有牛にするには(県から借りる形になる)、限度が55万円で、それを超える分を自己負担することは認められないらしい。相場が回復した現状では、その価格で買える牛は限られてくる。実際、65万円と85万円で落札されていた。
 第三候補として考えていた三島村産の安福久産子を、競り落とした。人懐っこい牛で、飼いやすそうだった。
 第四候補は、考えていなかった。もう一度、残りの競り名簿をチェックしたら、第一花国←忠富士という血統の雌がいた。
 『第一花国』は青森の牛で、日本一の名牛『平茂勝』に並ぶほどの名牛だった。『忠富士』は、宮崎を代表する名牛で、口蹄疫で犠牲にならなければ、宮崎牛を牽引する牛だった。二つの名牛が並んだ血統の雌牛に、『安福久』や『華春福』を着ければ、良い牛作りができるはずだ。
 でも、ここは鹿児島だ。周りの人や、獣医さんに聞いたが、誰も知らない・・・。『これは、買えるかもしれない』という思いと、『買っても評価されないかもしれない』という不安が交錯する。一応、限度枠いっぱいまで競るようお願いした。
 実際に競ってみたら、意外に値段の上がり方が遅く、47万円で落札された。思わずガッツポーズしたが、次の瞬間『本人!』と、アナウンスがあってがっかり・・・。
 とりあえず、その牛の牧場社長さんと連絡を取り、いくらなら売るつもりか聞いてみたら、限度枠を大きく超えていた。一時は断念したが、知り合いの社長さんと話をしたら、自分が間に入って話をしてみようと言ってくれ、再び交渉。
 交渉相手の社長さんは、数年前にうちの牧場から買った雌牛が、とても良い成績を残していて、良い印象を持っているそうだ。今後のつきあいも考え、特別に譲っていただいた。
 うちの牧場の先代社長や、口添えしてくれた知り合いの社長さんなどに助けられ、うちに来ることになった雌牛。こういう縁は、大切にしなければならないなぁ。皆さん、どうもありがとうございました。