出荷

 暗いうちに牛舎に行き、出荷牛に餌を与える。ほかの牛舎には電気が着いていないので、暇でも作業できない。
 家畜運搬用トレーラーを、段差のあるところにつけ、落差無く乗れるようセットした。普通の子牛は、これであまり苦労なく乗る。でも、今回の出荷牛の中で一番良く育った春風という子牛は、普段とても懐っこいくせに、頑として乗ろうとしなかった。
 時間をかければ、どんな子牛だって乗るんだ。時間をかけられたらね。だが、今日は通常より一時間船の時間が早まった。ただでさえ、時間が足りないのだ。後回しにして、ほかの子牛を運んだ。
 冷たい雨が降る中、屋根の無いトラクターで引っ張る。あまり急ぐと、トレーラーが跳ねて、子牛が転んで足を痛めてしまう。
 応援を頼んで、春風を乗せた。てこずっている間に、牛舎ではお産が始まった。でも、とにかく出荷牛を船に乗せるしかない。
 コンテナに子牛を繋いだ後、トレーラーを牛舎に帰し、ちょっと助産に入ったが、今日の牛は俺に慣れていないため、蹴ろうとするのでうまく引っ張れない。時間切れで、助産をあきらめ、急いで着替えて船に乗った。大急ぎで着替えたので、ポケットに携帯を忘れたままだった。
 船は、駆け込み乗船だった。
 錦江湾に入ると、屋久島に行く水中翼船トッピーが、船体を浮かせてすごい速さで追い抜いていった。
 荷物に入れたパソコンは、なぜかドコモのデータ通信カードがうまく繋がらなかった。携帯も無く、ネットも繋げないと、かなり不便である。
 鹿児島中央市場には、雪が積もっていた。