起立不能のナカボク

 島に、水道屋さんが来ている。これは、一気に離乳小屋の配管工事を終わらせるチャンスではないか?
 俺も出来なくはないが、持ってる道具が違うし、必要な部品が揃っていないのだ。モタモタしていると、年越ししてしまう。手が空いた隙に、やってもらうことになった。
 その水道屋さんは、ポンプの交換をしたのに、水があまり上がらないことを、不審に思っておられた。そして、予想通り、揚水パイプが割れているのを見つけたそうだ。ポンプもパイプも、老朽化してたんだね。もしかしたら、書く牧場に引いているパイプにも、異常があるかも知れない。水の減り方が早いのだ。
 見回りに行ったら、ナカボクの姿が見えない。
 最近激痩せしていて、心配していたのだ。スタンチョンには来なかったが、水飲み場にいた。痩せ方が気になるので、牛舎に連れかえることにした。
 ところが、モクシに紐をかけただけで、いつもは簡単に引っ張れるナカボクが、全然引っ張らせない。真っ直ぐ引いてダメなら、斜めに引くと引けることがある。引っ張ったら、崩れるように倒れてしまいました。これは変だ。休みなのだが、獣医さんに電話で相談し、点滴の指示を受けた。
 牛舎から道具を持ち出し、野外で点滴。親牛の頚静脈は小指ほどの太さがあり、素人でも簡単に刺せる。だけど、動かれると簡単に抜けたりずれたりして、皮下に液漏れのコブを作ってしまう。
 と言うことで、なかなか補液出来なかった。トレーラーに乗り換えて、なんとか牛舎に連れかえる。だが、トレーラーの中で倒れたっきり、起き上がれなくなってしまった。
 血管を捜すが、もはや浮き出てこない。体温が下がり、身体が冷たくなっていくし、目に力が無い。真っ暗になり、車のライトで照らしながら挑戦したが、浮きでない血管に針を刺すことが出来なかった。
 刈ってきた青草と水を与えたら、ちょっとだけ飲み食いした。寝る前に、もう一度牛舎に行ってみたが、同じ姿勢で踞ったままだった。風で飛ばされた毛布を、背中にかけてやった。