疲れる日

 昨日、隣の牛が3頭脱走して、俺が植えたイタリアンライグラスを、嬉しそうに食べていた。
 牛を飼っていたら、ときどき脱走するのはお互い様なのだ。これをいちいち文句言っていたら、牛飼いは出来ない。二人掛かりで、元の放牧地に追い込むことが出来た。脱出経路を調べたら、三段張ってあるバラ線の二段目が切られており、足跡はそこに集中していた。
 すぐに修理しておくように言って、俺は自分の仕事に戻った。
 ところが、今日は5頭の牛が、もっと良く伸びたイタリアンライグラス畑に入り込み、夢中になって食いあさっていた。ここは、うちの牛達の大切な冬の牧草だ。
 当人に電話するが、いつものように電話には出ない。食い荒らされてはたまらないので、関節炎の足で広い牧草地を走って追いかけた。一人で追っても、五頭の牛は牧草地から出たがらないさー!犬達の力を借りて、ようやく追い出した。でも、味を占めた牛達はすぐに帰ってくるだろう。畜主に電話しても出ないので、地域興し協力隊様に電話して、心当たりを聞いてみたら、たぶん自宅だからと直接行って、連絡してくれた。わざわざ家まで行ってくれた彼女に、お礼は言わなかったそうだ。
 アルバイトが休みだったので、すぐにやってきてなんとか柵に追い戻していた。そして、すぐに帰ってしまった。
 俺は、なんか一言あっても良いと思って電話したが、何も言わない。昨日直しておくように言った柵は、まだ直していない。不可抗力の脱柵なら、俺だって怒らない。だが、出ることが判っていて、対策しないで脱走し、大切な牧草を食い荒らした場合、文句を言う権利があると思うのは、俺だけか?
 でも、面倒くさそうに電話に出た彼からは、謝罪の言葉は聞かれず、俺の言葉を聞く気も無さそうだ。文句を言うのも馬鹿らしくなってきた。
「こんな文句を言う俺の方が、もしかしたらおかしいのか?」
と聞いたら、
「はい。」
だそうだ。ガックリと疲れてしまった_| ̄|○  でも、放置したら、うちの牛が食べる牧草を、食い尽くされてしまう。どうしたら良いのか判らない。
 
 俺が牛飼いになった頃、5頭しか牛は居なかったが、一日の大半は牛舎にいた。ブラッシングしたり、観察したり、柵を作ったり、牛舎を改造したり・・・。
 でも、頭数が少ないからこそ、きめ細やかな世話が出来たし、牛についていろいろ学べた。その頃の牛は、犬のように俺に懐いていたし、モトツボやモモカは、未だにその頃のままの関係だ。
 本も沢山読んだ。先輩達の所にも、勉強しに行っていた。それがあるから、今の俺があると思っている。