元十郎の危機 ベーコン完成

 元十郎は、モトツボの性質を良く受け継ぎ、生まれ落ちこそ大きくなかったが、食欲旺盛で安定していた。親がエサを食べるときは、エサ箱の縁に置いた子牛用のエサをついばみに来て、しっかり食べていた。
 ところが、セリから帰宅してからは、その光景を見ていない。不審に思っていたら、動けなくなっていた。熱を計るまでもなく低体温になっている。コクシジュウムで血便をした挙げ句、脱水症状になっているのかな?
 急いで治療薬を飲ませ、念のために抗生剤も注射した。ミルクを飲めていないようなので、代用乳を注射器で吸って、少しずつ飲ませた。体温を上げるために、体をタオルでさすってやり、分厚く敷いた敷きワラの上に寝かせ、毛布を掛けた。
 目が死んでいる・・・。物言わぬ子牛たちの健康状態を知るのに、俺は顔色や(真っ黒だけど)眼力を診る。今日の元十郎は、かなりの重症だ。途中から、ミルクの代わりに牛用ポカリを飲ませた。皮膚病治療にも使うが、実はドーピング薬にもなるというデキサメソゾンを注射した。体が、一時的に元気になるらしい。

 毛布だけでは心許ないので、牛衣も着せた。ちょっとは元気が出たような気もするが、今夜がヤマ場だろう。夜中と早朝、様子を見に来ることにした。借家なので、家に子牛を連れ帰ることは出来ないのだ。


 元十郎の世話と平行しながら、俺はスモーカー作りをしていた。20リットル缶二つを綺麗に洗い、一方の底に穴を開けた。肉を乗せる金網を調達し、早速ベーコンの燻煙開始。煙がモクモク出るが、換気扇に上手く吸い取られ、部屋の中には充満しなかった。
 2時間半後、完成!早速切って、頬張る。甘い!美味い!
 2kgの肉を使って作ったが、4つに切り分け、俺の分は一つだけ残し、人に配った。