キツネが丘牧場視察

 子牛達は、島では今与えている量の倍は、配合飼料を食べていたはずである。だが、沢山やった場合、強い牛が沢山食べ過ぎて下痢をする可能性がある。だから、その危険を回避するために、半分量しかやっていないとか・・・。この時期の子牛は、普通一日一キロも体重が増える。船の都合で、競りまで一週間も管理すると、少ないエサだと7kgも損することになる。

 子牛達は、与えたエサをあっという間に食べきり、物欲しそうに俺を見る。箒でエサの固まりをずらしたり、減ったところに補給したりしながら、便の様子を観察しながら、今日までにちょっとだけ量を増やしてきた。でも、下痢したら、大目玉を食らうだろう。
 俺の仕事は、日々研鑽を積まないと、成功しにくい。
 せっかく暇なので、眠っている哺乳ロボットを使うために、機械屋さんに行った。今のカーナビって、電話番号を入力すると、案内してくれるんだね!今頃知って、驚いてしまった(^^ゞ
 こういう話は、電話より直接話をする方が、真意が相手に伝わりやすい。会話の中で、俺が不安に思っている、実際の活用法はどうなのかという問題が出たら、『では見に行きましょう。』と話が進み、霧島市狐が丘牧場を視察することになった。

母牛約250頭のその牧場は、良い牛を作っていると評判で、とても高く売っているそうだ。

 母牛は基本的に放牧で、牧区をいくつにも分け、ローテーションさせているそうだ。バヒアグラスを永年として植え、冬期はイタリアングラスを追播して利用しているとか・・・夏になると、イタリアングラスが消え、バヒアが復活するらしい。
 出産から超早期母子分離、そして哺乳ロボットに吸い付かせるタイミングなどを、ご教授いただいた。ロボットを使う以外は、俺が北海道で実践していたのと同じなので、機械さえセッティングすれば、簡単に島の牧場にも使えると思った。
 ロボットは、ミルクを子牛にやるだけでなく、子牛ごとにセットした量を、どれだけ飲んだかプリントアウトして確認することが出来、健康管理もやりやすい。これなら、2ヶ月で3kgの配合飼料を食い込ませて離乳することも容易だろう。子牛のばらつきが無くなり、子牛の単価を上げることが出来ると思った。繁殖成績の悪い母親も、これで一気に解決する。
 高速を使って、大急ぎで帰る。俺は、出荷牛のエサやりがあるし、機械屋さんは仕事の途中で俺のために抜け出してくれたのだ。今日は、残業らしい。どうも、ありがとうございました。

 仕事を終え、天文館のホテルに帰ったら、機械屋の所長さんが迎えに来てくれた。
 こっこれは、接待というやつではないか?連れて行かれたのは、焼き肉屋さんだ。黒毛和牛が出た。
 一応、和牛を生産する者として、意見を言わせていただくと、お客に冷たい肉を出すべきではない。焼いたときに、中心部が冷たいので、脂の甘みを感じられないのだ。中心部が人肌になるまで焼くと、表面は焼きすぎになってしまう。室温にしばらく置いて、暖かくなってから焼くと、脂が溶けて美味しく焼けるのだ。
 和牛は、美味しい。だが、美味しく食べるためには、食べさせる側が美味しい食べ方をレクチャーできなければいけない。それを怠ると、やがて需要が無くなってしまう可能性があると思う。
 って、俺は肉に集中して、美味しく焼いて食べたんだけどね(^^ゞ為になる話も、いっぱい聞くことが出来たし・・・。どうもありがとうございます。
 所長は、若い青年も連れておられたのだが、奄美大島でジャガイモを作っている二代目だった。不思議なことに、土壌消毒をしないのに、ジャガイモが連作できるそうだ。日本で一番早出し芋になり、かなりの高値がつくという。